研究会。藤本由香里さん・竹宮惠子さん・夏目房之介さんがそれぞれよしながふみ『愛すべき娘たち』『西洋骨董洋菓子店』ほかをそれぞれ分析。
ほかならぬ夏目さんご自身が、もっとも詳細なレポートを書かれていらっしゃるので、まずそちらをお読みいただきたい。
ログが消えちゃう可能性を考えて一部引用させていただく。
http://www.ringolab.com/note/natsume/archives/001629.html

▼発端

もともとは、藤本由香里さんが竹宮恵子さんにインタビューして作った「竹宮恵子のマンガ教室」(筑摩書房)を読んで「俺がからんでりゃ、もっと面白かったのによ」という不遜な発言をしちまったのがきっかけで、じゃあ今度は「読者」「読み方」を中心にして、一緒にやりませんかという企画があったことに始まる。

ここまでの経緯は私は知らなかった。

 その後、NTT研究所の人と共同でやったマンガ読みの視線運動実験発表のあと、雑談で、伊藤剛氏、藤本氏、僕の3人、それぞれかなり違う好みの人間が、そろってよしながふみを「面白い」と断言して、それじゃこれを題材にしてみようという話になったのである。

この場には私もちゃっかり同席させていただいた。http://d.hatena.ne.jp/AYS/20040314参照。
最初、藤本由香里さんは確定申告の書類を今夜中に書かないといけないので参加しようかどうか迷っていらして、すぐに帰るということで参加(でも結局最後までいらしたような気がする)。
この席で最初によしながふみの名を出したのは誰だったろう。伊藤剛さんだっただろうか。藤本さんだったろうか。ヤマダトモコさんだったろうか。とにかく、どなたかがまず名前を出す。伊藤剛さんが熱く激賞。藤本さんも誉める。夏目さんもおだやかに同意、というような感じだったという。
藤本さんが「脱力系」「関節はずし系」というキーワードを説明なしで出す。その意味を問われるが、明確には定義できず、「あのマンガはそうなの?」「いや違うのよ」みたいに、具体的タイトルを当てはめることによってその感覚を場で共有しようとするが、なんとなくはわかったものの、藤本尺度を十分共有できなかった。
その場で、研究会でよしながふみを取り上げて議論したい、と藤本さんが提議、その後メーリングリスト(や、おそらく発表者間の個人メール)で詰められ、今日の開催とあいなったわけである。

▼開始
午後1時45分頃開始。会場はすでに満杯。最終的には48人も集まったという。
「予想通り、ただの(BSではない)マンガ夜話って感じですが(笑)」という夏目さんの一言で開始。
藤本さん→夏目さん→竹宮さんという順番で発表。みなさん、プレゼン資料を作っていらっしゃった。
……と、詳細レポートを書こうとしたのだけど、詳しい内容は、すでに夏目さんhttp://www.ringolab.com/note/natsume/archives/001629.html伊藤剛さんhttp://d.hatena.ne.jp/goito-mineral/20040601、magiさんhttp://d.hatena.ne.jp/pastoral/20040531が書かれているので、特に私が書く必要はなさそう。
で、とりこぼされている分を書こうと思ったのだけど、えーっと、メモはどこにやったっけ……。


本日の遭遇さん(上記以外):http://d.hatena.ne.jp/johanne/20040530#p2

参考リンク:http://www.h2.dion.ne.jp/~hkm_yawa/kansou/aisubekimusumetati.html

fairy-tale

よしながふみ『彼は花園で夢を見る』新書館(1999)を読む。
私が他に読んだよしなが作品はすべて現代の日本が舞台だが、これは外国の時代物。どうやら十字軍時代のキリスト教国領主と、イスラム圏の楽師の物語のようだ。が、その辺はあまり厳密ではない。厳密である必要がない。
私はこれまで『愛すべき娘たち』『西洋骨董洋菓子店』『こどもの体温』しか読んでいないが、「おはなし」としては『彼は花園で夢を見る』が一番好きだ。御伽噺として受け取ることができるからだろうか。
『特装版 こどもの体温』の解説で福田里香が指摘しているように、よしながの作品のテーマはやはり「家族」であり、主役と脇役が入れ替わる。エピソードの断片が連鎖的にリンクする、なかなかトリッキーな構成だと思う。

▼※以下、『彼は花園で夢を見る』ネタバレ。
私はこの一冊を読み始め、第2話まで読んだとき、これは中世の異国を舞台にしたオムニバス短編集なのだと思った。
だから、第1話に脇役として登場した領主が、第2話で主役として登場する領主の息子と同一人物などとはまったく思わなかった。
よしながの絵柄だと、ある種の男性読者である私は、あるキャラクターの若い頃の顔と、年をとった時の顔を見て同一人物だとは思えない。
あるいは逆に、似たような顔が出てきても、マンガ家の得意な顔をキャラクターに使っているだけで(手塚治虫スターシステム的に)、やはり同一人物だとは思わない。
それが逆説的に、効果を生んでいる(私にとっては)。なんと、同一人物だったのか。なんと、話が繋がっていたのか。と、意外さは増す。この辺は、似たような顔がいっぱい出てきたり、どう見ても別人という年齢差の人物を同一人物と言い切れるマンガならではの効果といえるのかもしれない。

▼引き続きネタバレ
ところで、私はハッピーエンドが好きだ。この本のラストは、ある元美少年が太ったおっさんとして登場する。それって、いいのか!? 読者は怒らないのか? でも、私はこのラストがとても好きだ。
でも、二人の姫はかわいそう。つかの間でも幸せな瞬間があったからいいということなのだろうか。

Grand Hotel-style

よしながふみ西洋骨董洋菓子店』を読んだ。面白かった。
4巻で完結なのか。潔いなあ。引き際をわかってらっしゃる。浦沢、見習え。でも8巻はぐらい続けてもよかったんじゃないか?

以前、http://d.hatena.ne.jp/AYS/20040314 夏目房之介さん・藤本由香里さん・伊藤剛さんらが絶賛されていたので、同じ作者の『愛すべき娘たち』を読んだ。
面白いことは面白いし、たしかに巧いなあ、とは思ったんだが、自分は男性であるし、人生経験がまだまだ浅いこともあって、その人生の機微を描いた内容に浸りきることはできなかった。とてもよいマンガだとは思うけど、好きなマンガというのとはちょっと違う、という感じ。

西洋骨董洋菓子店』の方は『アンティーク』というタイトルでテレビドラマ化されたのは知っていた。見なかったが、実家の母が見ていたという話を聞いた。
その頃は、どうせイケメンがいっぱい出てきてやおいっぽくて、ケーキ好きの女性読者はいい男とおいしいケーキを両方楽しめる、そんな話なんだろう、という程度の認識しかなかった。ごめんなさい。
まあイケメンがいっぱい出てくるし、やおい要素は満載なのだが、やっぱりこの人、構成が実に巧い。「えっ、あのエピソードって、この伏線だったの?」「えっ、あの人物が、こう繋がるの?」と、忘れた頃に要素要素がリンクするのに驚かされる。伏線好きの私にはなんとも至福である。

1巻を読んだ段階では、ケーキ屋を舞台に、そこを訪れる人々の人生を描く内容なのかと思った。ケーキ屋のイケメンたちは狂言回しに過ぎないのではないかと。
その点、客はあくまで他人であり、レストランの従業員たちが主人公のドラマ『王様のレストラン』や佐々木倫子HEAVEN?』なんかとは逆パターンの話だなあ、と思った。
ところが巻が進んでいくと、そうでもないのである。ケーキ屋のイケメンたちは単なる狂言回しなのではなかった。客の人生も描かれるが、最終的には従業員たちの人生に着地する。
この辺は、『愛すべき娘たち』にも共通する趣向だろう。

実は、月末の研究会のために読んでいるのである。夏目さんもこう書かれている。
http://www.ringolab.com/note/natsume/archives/001567.html

ところで、月末に、ある研究会でよしながふみ西洋骨董洋菓子店」のコマ構成の分析を発表するので読んでいるのだが、あらためて感心する。
 見事である。当面、よしながを読み返す。

夏目さんのコマ構成分析を聞けるのか。楽しみである。


ところで、ケーキの説明をはじめ、このマンガはセリフの量がとても多い。ケーキの説明などは全部読めということではないのだと理解して、あえて飛ばし読みをしたのだが、一般の女性読者はどう読んでいるのだろうか。研究会の際、機会あがれば聞いてみたい。

よしながふみファンサイトhttp://yoshinagafc.web.infoseek.co.jp/

池袋西武にあるリブロのマンガコーナーに、男の子も読める少女マンガコーナーというのができていて、その中に『西洋骨董洋菓子店』もあった。ゲイ描写も多いので1巻だけだと微妙だと思う。
ちなみにそのコーナーに他に置いてあったのはうろ覚えだが、『NANA』『のだめカンタービレ』とかだったような。
『のだめ』読みたいな。

(C)虫プロ

夏目さんの最近のオススメは以下とのこと。
http://www.comicpark.net/natsume040521.asp

 思い出すときには、そのときに合わせて、今だとこんな作品をあげたりする。
 山本英夫ホムンクルスビッグコミック・スピリッツ連載中(小学館
 二ノ宮知子のだめカンタービレ』Kiss連載中(講談社
 井上博和『みのりの日々』ヤングキングアワーズ連載中(少年画報社
 ダーティ松本『エロ魂 私説エロマンガ・エロ劇画激闘史』1(オークラ出版

他によしながふみと、『PLUTO』の名前が挙がっている。原則単行本でしか読まないという夏目さんも、浦沢直樹プルートゥ』はお読みになっているのか。
20世紀少年』『プルートゥ』はたしかに面白く、他のマンガと比べるとエンターテイメントのレベルがとても高い。
だが、『MONSTER』の中盤以降、どうも浦沢は手を抜いているような気がしてしまう。
MASTERキートン』に見られるように、浦沢はワンエピソードの構成力がすごく巧い(むしろ「協力」としてクレジットされている長崎尚志か? やはり勝鹿北星と同一人物だったりするのだろうか)。
だが、『MONSTER』『20世紀少年』は長すぎるというか、ひとつのネタを引っ張りすぎだと思う。あれだけ引っ張った割には、『MONSTER』の終盤の展開はいまいちだったと思う。『20世紀少年』もいまのところ、そうなる予感がする。
PLUTO』も私は毎回楽しみに読んではいるのだが、プルートゥを描かないという構成は同じように過度に思わせぶりだし、冷静に考えると、いまのところ「ブランドーはそうくるか」とか「ブラックジャックのことを言及している!」とか「アトムキタァァーーー!」とか、手塚作品への翻案っぷりにいちいち反応しているだけのような気がする。……それって同人誌の楽しみ方じゃないのか?
浦沢の実力はこんなもんじゃないと思うのだ。

専門家評価

マンガの発見 夏目房之介
http://www.comicpark.net/natsume040521.asp

【 連載第48回 】  
「おすすめのマンガ?」   夏目房之介
一応マンガ好きで「BSマンガ夜話」をみていて、はじめて僕に会ったような人から、ものすごぉく期待に満ちた目で、
「おすすめのマンガとか、ありますか?」
 と聞かれることがある。
 これが、けっこう困る。
 全然マンガから遠ざかったような人だと、それはそれで何をすすめていいのか困るが、そこそこ知ってると、それなりに好みがあるので、もっと困る。
 「いろんな好みがあるから」といってすすめればイイといえばイイのだが、ディープな少女マンガが読めない人によしながふみをすすめても、そもそも文法的に読みこなせない場合もあるのだ。

夏目さん、マジメだなあ。
私も『BSマンガ夜話』をきっかけに夏目ファンになったような人間なので、彼らの気持ちはよくわかる。ような気がする。
たぶん、彼らは本気でオススメのマンガを聞きたいわけではない、のだと思う。「ものすごぉく期待に満ちた目」とあるけど。
第一に、それぐらいしか話題がない。せっかく夏目さんに会えたのだから、何かマンガの話をしたい。だが、自分からどんなマンガのタイトルを挙げればいいのかわからないのだ。
第二に、夏目さんから具体的なマンガのタイトルが出るのを聞きたい。で、出る言葉が「おすすめのマンガとか、ありますか?」とか「最近どういうマンガを読まれているのですか?」とかなんだと思う。極言すれば、話題になれば何でもいいのだ。

もし、自分が面白いと思っているマンガを夏目さんが挙げれば、「おおっ、やっぱりあれは夏目さんも高く評価してるんだ!」とお墨付きをもらってうれしくなる。
自分がぜんぜん知らないマンガや、読んだが自分では面白さがわからないマンガのタイトルを夏目さんが挙げれば、「おおっ、さすがプロの批評家は自分のような並みのマンガ読みとは違う」と感動する。
質問したほうは、どっちでもいいのだ。というわけで、夏目さんはどんなマンガのタイトルを挙げてもいいのだと思う。

むしろ逆に相手に「どんなマンガ読んでるの?」と聞いていただきたい。知っていればそのマンガを誉めてあげれば、前述のと同じ理由で相手は喜ぶだろうし、読んでなければこういう人物はそういうマンガを読んでいるのか、と思えばいいのではないか。
具体的なタイトルを思い浮かばなかったときも、まずこう相手に聞いて、そこから連想する似たような系統のマンガを話題にすればいいと思う。

異相

今市子百鬼夜行抄』(朝日ソノラマ)を、文庫版で読んでいる。
先日のBSマンガ夜話の再放送で見て(本放送は知らないうちに見逃していたようだ)、読みたいと思ってくれたところに、貸してくださる方が現れ、これ幸いと夢中になって読んでいる。

妖怪マンガである。舞台は現代。祖父譲りの霊感を持つ高校生の少年を狂言回しに、妖怪が原因の事件を描く。
舞台は違うし、主人公は特殊能力者ではないが、『蟲師』(こちらの方が後発だが)と基本的に同じタイプの話である。
絵は過度に少女マンガ的でもないので、男性も違和感なく読めるはずだ。

このマンガ、けっこう怖い。ビジュアルが怖いとか、ショッキングなシーンがあるわけではない。だが、話はしばしば不気味である。
しかし、不快感はない。

美内すずえ(『ガラスの仮面』)の恐怖マンガを読んだことがあるのだが、いたずらに恐怖感を煽るだけで、怖いといえば怖いのだが、ただ怖いだけとか、いたずらに残虐なので私の好みではなかった。
しかし本作は、基本的に作者の視点が温かい。オチは基本的にハッピーエンドである。
多くは人間も妖怪も、悪意によって動くことはほとんどない。
人間の世界と妖怪の世界が、少しルールが違うためにちょっとしたボタンの掛け違えが起り、そこにドラマが生まれるのだ。

作者は元々やおいマンガ(ボーイズラブって言わなきゃダメなのかな?)の人のようなのだが、このマンガではそんな要素は微塵もないので安心して読める。(私が気づかないだけか?)