fairy-tale

よしながふみ『彼は花園で夢を見る』新書館(1999)を読む。
私が他に読んだよしなが作品はすべて現代の日本が舞台だが、これは外国の時代物。どうやら十字軍時代のキリスト教国領主と、イスラム圏の楽師の物語のようだ。が、その辺はあまり厳密ではない。厳密である必要がない。
私はこれまで『愛すべき娘たち』『西洋骨董洋菓子店』『こどもの体温』しか読んでいないが、「おはなし」としては『彼は花園で夢を見る』が一番好きだ。御伽噺として受け取ることができるからだろうか。
『特装版 こどもの体温』の解説で福田里香が指摘しているように、よしながの作品のテーマはやはり「家族」であり、主役と脇役が入れ替わる。エピソードの断片が連鎖的にリンクする、なかなかトリッキーな構成だと思う。

▼※以下、『彼は花園で夢を見る』ネタバレ。
私はこの一冊を読み始め、第2話まで読んだとき、これは中世の異国を舞台にしたオムニバス短編集なのだと思った。
だから、第1話に脇役として登場した領主が、第2話で主役として登場する領主の息子と同一人物などとはまったく思わなかった。
よしながの絵柄だと、ある種の男性読者である私は、あるキャラクターの若い頃の顔と、年をとった時の顔を見て同一人物だとは思えない。
あるいは逆に、似たような顔が出てきても、マンガ家の得意な顔をキャラクターに使っているだけで(手塚治虫スターシステム的に)、やはり同一人物だとは思わない。
それが逆説的に、効果を生んでいる(私にとっては)。なんと、同一人物だったのか。なんと、話が繋がっていたのか。と、意外さは増す。この辺は、似たような顔がいっぱい出てきたり、どう見ても別人という年齢差の人物を同一人物と言い切れるマンガならではの効果といえるのかもしれない。

▼引き続きネタバレ
ところで、私はハッピーエンドが好きだ。この本のラストは、ある元美少年が太ったおっさんとして登場する。それって、いいのか!? 読者は怒らないのか? でも、私はこのラストがとても好きだ。
でも、二人の姫はかわいそう。つかの間でも幸せな瞬間があったからいいということなのだろうか。