本のオビの入れ替え遊びとモンタージュ効果

知り合いに本のオビ(腰巻ともいう)の文句を日々考えている編集者や有識者の方がたくさんいらしているのになんですが、これは久々に面白かった。↓

日刊スレッドガイド マンガの帯つけかえて遊ぼうぜwwwww
http://guideline.livedoor.biz/archives/50831300.html

⊂⌒⊃。Д。)⊃カジ速≡≡≡⊂⌒つ゚Д゚)つFull Auto マンガの帯つけかえて遊ぼうぜwwwww
http://www.kajisoku.com/archives/eid1168.html



なるほど! この発想はなかった。

これはマンガだけじゃなくて、すべての本でできますね。
海外の本は、オビどころかカバー自体ないものがほとんどなので、これは日本ならではの遊びといえます。


まったく関係のないふたつのものを組み合わせると、受け手が勝手にその関係を見出して意味を見出してしまう、というのは、
編集によって生み出された文脈によって、ニュートラルな映像を解釈してしまうという、モンタージュ効果ですね。

モンタージュといえば、クレショフ効果と呼ばれる有名な実験があって面白いです。

クレショフ効果とは何かというと、彼はまずある役者の無表情な顔のショットを撮ってですね、それを色んな別なもののショットと繋ぎ合わせてみたんです。
無表情な顔のショット→暖かそうなスープ
無表情な顔のショット→棺に入れられた老婆
無表情な顔のショット→遊んでいる小さな女の子
ってな感じです。どのパターンでも、二つ目のショットには最初の役者は全然出てこないんですよ。するとどうなるかっていうと、見ている人が勝手に二つのショットの意味を繋げて解釈するわけです。顔のショットはみんな同じなのに、最初のパターンでは「空腹」、次のやつでは「悲しみ」、最後のやつでは「愛情」といった別々の表現を感じ取っちゃうんですね。これを最初に見たソビエトの観客は、「ほとんど表情を変えずに色んな感情の変化を表現するとは、なんてすごい俳優だ!」ってビックリしたそうですよ。つまりショットには映っていない意味が観客の頭の中で作られるんですね。

http://filmstudies.blog21.fc2.com/blog-entry-40.html


ドラマの予告編なんかでも、このモンタージュの手法がよく利用(悪用)されていますよね。
たとえば予告編で、

  • 倒れる主人公の男→泣き叫ぶヒロイン

という、ふたつのシーンが編集されているものがあったら、
我々は「次回は主人公の男が倒れて、ヒロインが泣き叫ぶという波乱の展開!」かと思うわけですが、
実は見てみたら、

  • 主人公の男が空腹を表現するために、ふざけて倒れるフリをするという本筋とはぜんぜん関係ないシーン
  • 財布を落としたのに気づいて泣き叫ぶヒロインという、単なるヒロインのドジっ子っぷりを表現したシーン

だったりして、我々は編集のマジックに騙されるわけです。

予告編入りのドラマのDVDを借りてきて、まず本編を見てから、前回の終わりについている予告編を見ると、どこをどう切り抜いてどういう予告編に仕立て上げたのか、編集の勉強になりそうな気がします。

最近ではYoutubeによく上がっているMADムービーなども、多くはこの編集の遊びですね(音声の編集も含む)。
あるいはデスノコラとかも。


話を戻すと、このオビの入れ替え遊びは、先日紹介したギャグ作家「ひだけーだい」さん*1のお笑い分類にあったかどうかは忘れましたが、ひとつひとつは特に面白いものでなくても、組み合わせただけでその違和感または違和感のなさで笑えるというのも、お笑いの基本要素のひとつですね。
モンタージュから来る笑いといえるでしょう。



マンガだけじゃなくて、あらゆる書籍で応用がききますね。
この遊びは定番化していってもいいと思う。

でも、これって著作権違反になるのかな?
まあ、著作物の無断掲載という時点でアウトですけど、気になるのは「同一性保持権」になるのかとか。
組み合わせて提示しただけで、それぞれには手を加えていないのですが、オビを付けただけでも表紙を改変したことになるのかな、やっぱり。



実名でオビの推薦文を書ける人というのは、有名人である必要があって、しかもその発言を信じてもらえる立派な人でないとダメなんですね。
自分が買う本には、よく夏目房之介さんや東浩紀さんが推薦文を書いていますが、そう考えるとますますスゲーという感じです。*2


オビは編集者や営業の判断で付け替えられるものなので、Amazonの書影にはほとんど反映されていません。
ですから、いろいろなオビを見るというのも、リアル書店でウィンドウショッピングをする楽しみのひとつになるかもしれません。

雑誌「ダ・ヴィンチ」には、オビを論評する「腰巻き大賞」なんてコーナーがあったり。

ダヴィンチ 2007/03月号

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それにしても、けっこうオビを捨てている人がいるんですね。
(まあ、書店でも勝手に捨てていいことになっているみたいだけど)

オビもけっこう重要な情報源なので、実家の近所の図書館では、オビをわざわざ切って分解して、表紙をめくった次のページの空白のところに貼り付けたりしていたりしていて感心しました。
それにしても、国会図書館ではオビどころかカバーや付録を全部捨てているのがありえない。

私は、オビはつけたままだと本棚に出し入れするときに破れてしまうので、取り外して折って栞として使っています。


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*1:http://d.hatena.ne.jp/AYS/20070208

*2:夏目房之介さんといえば、祖父・夏目漱石とのツーショット写真がすごかった→http://blogs.itmedia.co.jp/natsume/2007/02/post_550b.html