だがオレは納得したいだけだッ!

いまさらだが映画『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』を見てきた。(同日、『LOVERS』『華氏911』も見てきたのだがその話はまたいずれ)
ハリー・ポッター』の原作本は1作目を母から借りて最初を読んだだけ、映画は1作目・2作目とも劇場で見てけっこう面白く感じて、DVDはamazonのバーゲンで安く買ったけどテレビサイズで見てもあんまり面白くないかも、と思った程度である。

で、3作目であるが。
つまんなくはないのだが、脚本・構成に難があると思う。これは前2作を見たときは特に感じなかった気がする。読んでないので、原作からの問題点なのかどうかよくわからない。

特に後半がかなーりイマイチに感じた。

以下、超【ネタバレ】モードですのでよろしく。

●難点その1 敵

アズカバンの囚人が実は冤罪というのは、なんとなく予想がついていたのだが、真犯人の正体がネズミとか、その辺の意外さはまあ驚けてよい。
これは一作目でスネイプ先生が犯人と思わせておいて、マヌケなターバンが悪者だったというどんでん返しと同じでけっこう驚かされたときと同様(同じパターンではあるが)。
ただ、ロンのネズミがいなくなるという伏線はあるものの、「ネズミの行動がなんか怪しい」という伏線がないので、唐突に感じる。
「夜の廊下での、地図上の謎の足跡」という伏線はまあいいのだが、ネズミが映るシーンでも何か伏線が欲しかったところだ。

新任の先生が実は狼男という設定はよくわからん。最後に無理やりバトルを仕掛けようとしたため??
この設定がまったく必然性がない。しかも理由は薬を飲み忘れたから? 何それ。

アズカバンの看守がナズグルみたいな奴で、ほとんど見境なく人を襲うという設定もよくわからん。そんな奴野放しにしちゃダメじゃん。

ということで、今回、本来敵でないはずのアズカバンの看守モンスターと、狼男先生がラスボス、というよくわかんない設定になっていていまいちラストバトルの動機付けに欠ける。
本来ラスボスであるはずのネズミがなんか逃げたっぽい、というのもしまらない。

●難点その2 説明不足

で、実はアズカバンの囚人は冤罪っていう話とか、真犯人はネズミっていう話とか、新任の先生とその二人とハリーの父が同級生という話とか、唐突に一気にセリフで語られて、しかもスネイプ先生の乱入があったりハリーのドツキがあったりして、この辺ぜんぜん整理されてない。理解するのが大変だった。

それにしてもなぜ冤罪になってしまったのか説明がないのでさっぱりわからない。

あと、スネイプ先生はやはり実はいい人で、結局ハリーたち子ども3人をかばいまくるし、そもそも授業中に唐突に狼男の話をして、ハーマイオニーが得意げに答えたら「中途半端に知ったかぶるな」みたいなことを言って、もっとちゃんと調べてこいと宿題を出したのは、こうなることを予測していたのでハリーたちがこういう危険に遭ったときに備えさせようとしたものと思われるのだが、その辺の説明もないね。まあいいけど。

そういえば、冒頭のバスがなぜハリーのとこに来たのかもよくわからない。本筋とぜんぜん関係なかったな、あのバス。

●難点その3 世界のルールが破綻する便利アイテム

ハーマイオニーのタイムスリップアイテム。これ出しちゃっていいの?
これを使えば未来の自分が助けてくれることになって、今後どんなピンチがあってもOKになっちゃうぞ? 『ドラえもん』みたいにその辺はツッコまないで、ということなんだろうか。
あるいは、これまでなぜ過去の危機に使わなかったのか納得できない。ハリーの両親とかこれで助けられなかったんか?
これまでの使用例が「バッティングしてる授業の同時履修」って……。おい。

「歴史を変えるのはよくないから」ということなのかもしれないが、なぜ今回はOKだったのかもよくわからない。
よくわからんが結局ハリーたちは助かったんだから、わざわざ助けに行かなくてもいいだろという話になる。天馬だけ助ければいいじゃん。
あれ? タイムスリップをそそのかした校長は、ハリーたちがタイムスリップしていろいろやったということを知っていたんだっけ? そうではなかったはず。

この安易に万能アイテムを出してしまう危険性に関しては、万能レーダー地図についても言えるのだが。

ハーマイオニーがいつのまにか授業にいて、「いつ来たの?」っていう伏線もちょっと不自然だ。
タイムスリップ可なら、最初から最後までいていいわけなので不可解。これでは瞬間移動をしているような伏線ではないか。
授業を終えて廊下を歩いていたら、さっきまでいっしょだったはずのハーマイオニーが別の教室から出てきたとかの方が映像のインパクトもあるし、マシだと思う。

●難点その4 意味のないタイムスリップ

というわけで、今回、終盤はタイムスリップなのだが、これがどうしょうもなくつまらない。
もっとも好きな映画は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で、『ドラえもん』や『スタートレック』シリーズでいろんなタイムスリップを見てる私なので、ちょっとうるさいですよ。

便利アイテム出しちゃっていいの? というのは置くとして、タイムスリップを許容したとしよう。
だが、何の面白さもない。
そもそも、天馬が最初に処刑されるとき、なぜハリーたちが意地でも止めずに見逃したのかが納得できない。止めようとしたが何らかの邪魔でできなかった、というのならわかるのだが。
だまって見てただけでしょ、アナタがた。何をいまさら。
タイムスリップして助けるために最初は見逃したとしか思えない。こういう作り手の都合がバレバレというのは嫌だ。

タイムスリップものの醍醐味のひとつに、過去を改変することがあるのだが、
本作では「何者かが石を投げてきた」「シシ神様が現れて助けてくれた」(それにしてもなぜ『もののけ姫』のオマージュ?)など、
歴史を改変しているのではなくて、すでに決まっている歴史のシナリオ通りに行動させるだけである。
しかも、タイムスリップ前にハリーたちは助かっているのだから、「はたしてハリーとハーマイオニーは、過去の自分たちを助けることができるのでしょうか!?」というサスペンスがゼロ。
ここが最大の問題点だ。

さっき起こったことの再現でしかないので、同じシーンを二度見せられてて激しく退屈である。
この先に何が起こるのかわからないのだから面白いのであって、何が起こるのかわかる映像を延々見せてどうするのだ。
タイムスリップを面白くする手段に使うのではなく、つまらなくする手段に使ってしまっている。これには呆れてしまった。

ハリーはシシ神様のことをお父さんだと思うのだが、タイムスリップネタが出た時点で観客は全員あれはハリー自身のシワザだとわかってしまうので、ハリーが「あれはお父さんじゃなくて僕自身だったのか!」とか言っても何をいまさら、という感じ。
のび太の魔界大冒険』の冒頭の謎のドラえもんのび太の石像の伏線の真相がわかったときみたいな感動をくれなきゃダメだろ!

最後の「急いで戻らなくちゃ!」ってのも意味不明。なんでロンを騙す必要があるの??
過去の自分に会ってはいけない、というのもタイムスリップものでよくある話ではあるが、ハリー・ポッター世界でなぜダメなのかは説明されていないのでその辺もいまいち釈然としない。


その他、個人的趣味での感想としては、私はヘタレ少年ががんばる話(『ダイの大冒険』のポップ君とか)が好きなので、前作でロン少年のチェスシーンで燃えたのだが、今作ではまったく活躍せず残念。
ライバルのドラコも、嫌な奴だが優秀な奴で、嫌な態度はハリーへのライバル心とか、プライドの高さによる屈折したものだと解釈していたのだが、今作では「助けてママン」という、ただの口だけのヘタレな奴になっててこれも残念。やっぱりリーゼントじゃないと力が出ないのかな?

と、気になった点だけを列挙してみました。
最後にフォローしとくと、でもまあ、見て損した映画ではなかったですよ。4作目も劇場で見ます。


*その世界でのルールをちゃんと伏線として出して、その上でサスペンスを生め! ってのはキリコさんがよく書かれています。
http://red.ribbon.to/~kiriko/column.htm
ここの「大長編ドラえもん」(特に「のび太の恐竜」)とか「ゲームとしての物語」あたりを参照。