invisible hand

私はTRPGをやったことがない。
だからいくつか疑問がある。そのひとつは、「賢さ」のパラメータが数値で表現されていることだ。
ゲームマスターが状況説明して、プレイヤーは自らの意志で行動を決める。
その際、「こういう行動は危険そうだからやめよう」とか「こういう行動をとってみる」とか思いつくというのは、プレイヤーの賢さのゆえんである。
ところが、プレイヤーキャラの賢さの数値がバカだったらどうか。プレイヤーキャラはそんなことを考えるかどうか、というのをいちいち考えて、危険を承知でキャラを死地へ赴かせるのだろうか。
あるいは逆だったら。賢者のキャラを、あんまり頭のよくないプレイヤーが操作していたらどうなる。

そんなことを考えたのは、http://d.hatena.ne.jp/AYS/20040412の日記の、にゃあさんとのやりとりからである。

# にゃあ 『性格や感情も、運でさえも数値化すれば『ルール』の中にはいってしまう。そうなれば肉体アビリティと違いはなくなる。『ルールの中にあるもの』と『ルールの外にあるもの』についての考察とすべきではないでしょうか。「ビデオゲームの例でいえば〜」は、つまり運のようなものがゲームのルールの外で働いたと。クリりンを殺されたらゴ空が怒りで強くなるのはルールの外にある『脚本』によるものでしょう。』 (2004/04/15 01:39)
AYS 『にゃあさんのコメントをきっかけに、改めて両者の違いを考えてみたのですが。「能力アビリティ」はenable、問題解決能力で、「内面アビリティ」はconditioning??、特定のシチュエーションに置かれた場合にどうなるかというルールという感じでしょうか』 (2004/04/15 01:46)
AYS 『「内面アビリティ」は磁石のS極のようなもので、S極という状況に陥ると必ず反発し、N極という状況に遭遇するとかならず接近するみたいなルールですね』 (2004/04/15 01:48)
AYS 『一方、「能力アビリティ」は使うことができる能力。使うかどうかは本人しだい。』 (2004/04/15 01:49)
AYS 『と、考えるとむしろ「内面アビリティ」は「性格」ですかねえ』 (2004/04/15 01:51)
AYS 『アビリティという言い方は、ファイナルファンタジーからの類推なんじゃないでしょうか。プレイヤーキャラクターに付与する技能のことです。ここでの使い方は……心理学的に言うと個人属性? でもパーソナリティって訳しちゃうと能力アビリティっぽさがないっぽく聞こえるな』 (2004/04/15 01:54)
# にゃあ 『おぉ。なんか『噛み応えのあるイカくん』をみつけたようです。こういうの好きで、自分のサイトを持つならゲームのシステム分析とか書いてみたいと思っています。「内面・・・肉体」分類は難しいですね。以前自作のTRPGを考えたときには、『シナリオアビリティ』とか『ドラマアビリティ』なんて表現を使ってました。』 (2004/04/15 02:28)
# にゃあ 『問題解決能力・・・そうですね、それだけを使用すると『ゲーム』になりますね。逆に内面だけにすると、ストーリーが浮かんでくるようです。』 (2004/04/15 02:45)
AYS 『この前やはりこの「ゲームとしての物語」を引用して語ったときにふれた、「キャラクターが勝手に動いて話を作る」という話は、「内面アビリティ」の話ですね。どっちかというと。http://d.hatena.ne.jp/AYS/20040126#p1』 (2004/04/15 02:51)

にゃあさんご指摘の「性格や感情も、運でさえも数値化すれば『ルール』の中にはいってしまう。」からである。
上記の私のコメントのように、キリコさんのいうhttp://red.ribbon.to/~kiriko/rule3.htm
を、私は次のように解釈してみた。
A「能力アビリティ」は、プレイヤー(あるいはキャラクター)の意志によって発動させるかやめておくか決めることができる。
一方、B「内面アビリティ」は、本人の意思とは関係なく、特定のシチュエーションでその人物がとってしまう行動の原則である。
Aは「〜ことができる」、Bは「必ずそうする」という感じ。たとえば、
オバケのQ太郎』のQ太郎 A:消える・クツに化ける、B:犬を見たら逃げる
ドラえもん』のドラえもん A:ひみつ道具を出す、Bネズミを見たら逃げる・のび太が困っていたら助ける・ドラ焼きに目がない
水戸黄門』の黄門様 A:格さんに印籠を出させる(番組的にはBだが) B:困ってる人や悪人を見ると放っておけない
もちろん、細かい状況によってはその限りではない。
……と、私は解釈してみた。キリコさんの考えとは違うかもしれないが、とりあえずそのように私は分けてみた。*1

冒頭で書いた、TRPGの賢さにまつわる問題は、まさに、A:プレイヤーの意思決定、B:パラメータの「賢さ」 というまったく異なる位相のアビリティが、同時に同じ事象に介入しようとしたための衝突のことだったのではないか。
TRPGでは、「賢さ」が5以下のキャラクターはここでその方法に気づけないとか、サイコロで6を出さないと気づけないとかいうルールを作ったりする(と想像する)。プレイヤーは手を出せない。
キャラクターはオートで動いてしまう。
一方、「賢さ」のパラメータに関係なく、プレイヤーの知的な発想によって意思決定をし、それにしたがってキャラクターが行動を決定する場合は、プレイヤーの「能力アビリティ」が発動し、キャラクターの「内面アビリティ」は無視されたということになる。
この辺、ゲームではない作品の場合、プレイヤーは作者になる。
キャラクターの性格などを無視して、作者が不用意に、あるいはご都合主義的にキャラクターを動かすと、「このキャラクターはこんな行動をするはずはない」と読者は考える。
このように、『デスノート』の「夜神月は頭がいい」という「能力アビリティ」は、「夜神月は頭がいいからこう行動するはずだ/こういう失敗はしないはずだ」という、「内面アビリティ」的要素ももつ。それだけに、盛り上げるためということはわかっていても、夜神月がお馬鹿な行動をしていると何か違う気がするのだ。http://d.hatena.ne.jp/tragedy/20040204#1075894371

*1:考えてみると、この分類ではなかなか主人公を説明しきれない作品がけっこう多いことに気づいたのだが、その話はまた今度。