夏目と目

また新宿というか初台のICCへ。
「百聞は一見にしかず──21世紀の新しい表現の作法を求めて」のシンポジウムを見に行ってきた。

シンポジウム「まんがの文法を知るために」
記録と表現にて実験を行なった,人々がまんがをどのように読んでいるのかを検証する実験結果の報告会.実験の主旨,実験の結果の発表ならびに,結果を基にしたディスカッションを行なう.
日時:2004年3月14日(日)午後2時─午後5時 [終了しました.]
場所:ICCギャラリーA
入場料:一般500円,大学生以下無料
定員:150名(事前予約制、定員に満たない場合は当日先着順)
*参加ご希望の方はこちらの参加申し込み/申し込み状況からお申し込みください.
出演者 : 夏目房之介(まんが評論),大野健彦(NTTコミュニケーション科学基礎研究所),中澤潤(千葉大学教育学部),笹本純(筑波大学芸術学系)

http://www.ntticc.or.jp/Calendar/2004/Seeing_is_Believing/Events/event02_j.html
実験の趣旨などは伊藤剛さんのレポートをid:goito-mineral:20040315をご参照ください。(横着すぎ)
会場に入ると現代マンガ図書館の内記さん、元ガイナックス社員の某さん、マンガ研究家の秋田さん、NTT出版の植草さんを発見。後の休憩時間でマンガ評論家の伊藤剛さん、マンガ評論家の藤本由香里さん、ベクターの池川さんも発見(発見順)。その他私が面識のないマンガ評論家・編集者の方々もいたようだ。
登壇して講演できるクラスの人々が客席にゴロゴロいるってのもすごいなあ。
客は私の目算では50人ぐらいかな? 昨日の半分近い。

大野さんはパックマンの視線云々の研究をした方か。なんか昔論文を調べてたとき見かけたような記憶がある。その論文これかな?(PDFなので注意)http://www.brl.ntt.co.jp/people/takehiko/papers/jcss98.pdf

実験に使ったのは少女マンガ『桜蘭高校ホスト部』、大人マンガ『ブラックジャックによろしく』、少年マンガ『怪物くん』、アメコミ『ヘルボーイ』、4コママンガ『あたしンち』。で、いま列挙したのは(本一冊じゃなくて見開きを)読む速度が速い順。
大野さんが「どう見ても『あたしンち』が一番読みやすいのにかかわらず、一番遅いという意外な結果が出た」みたいなことを言っていたけど、4コママンガが一番セリフの密度が濃かったり、いちいちオチがついてたりして、読むスピードが遅いのは当然だと思うけど違うのかな?
夏目さんは「世田谷線という歩いてすぐの距離で停まる電車に乗っていると、ものすごく長い距離を乗っているような気がする」*1という例を出したりして、実時間と体感時間の違いを話に出して興味深かった*2

その他、実験の細かいとこにいろいろツッコミを入れたいところだけど、まだ始まったばかりだし面倒くさいのでやめておこう。

本日の夏目の目のコーナー(ウソ)。

ブラックジャックによろしく』の2巻の24ページの下段コマ。
「今すぐ宮村さんの退院手続きをとるの……」というふきだしがコマの右上にあって、次のセリフ「他のいい医者のいる病院に連れていくんだよ……!!」がある左下のふきだしまで線を引くと、その間に挟まっている人物の顔のアップの目と平行になっているわけです。
次のページの最初のコマでも、同じように人物の顔が配置されている。
普通は顔が、アップでは目が、記号になっているわけです。
このマンガは、だいたい全部こうなってる。すごく教科書的な視線移動をしているわけです。だからすごく読みやすい。

(例によって夏目さんのお話を私がメモしたものを元にした再現で、実際の発言とは多少異なります)

こういう視線移動を無視しまくりの小林源文のマンガとかで実験するとどうなるんだろ。


終了後、夏目さん達は朝日新聞か何かの取材を受けに。
打ち上げに混ぜてくれるということなので、冒頭の人たちと立ち話をしながら待つ。
取材が終わり、冒頭に書いた方々(一部を除く)と演者の方全員で地下のそば屋へ。
すんごく濃い話。みんな、熱いよ!(ちなみに今日のシンポジウムとか今回の実験の話はぜんぜん出ませんでした)
伊藤剛さん語りまくる。藤本由香里さんも「変なスイッチ」(夏目さん曰く)が入って語りまくる。夏目さんはマンガ夜話のときと同じように、基本的に聞いていて、要所要所で的確なツッコミと総括的な見解の披露。
モニターで読むマンガについてとか。大塚英志の本を誰かが誉めてたりとか(『戦後まんがの表現空間―記号的身体の呪縛』ISBN:4831872059
『「おたく」の精神史 一九八〇年代論』ISBN:4061497030とも言ってたけど)。マンガ喫茶の役割や貸本屋とか貸与権の話とか。石子順造の文章は下手だと誰かが言っていたりとか。マンガ夜話で夏目さんが地雷発言をしてもいしかわじゅんが言ったことになる話とか。
笹本さんはこうの史代『夕凪の詩』*3を激賞。マンガ家のみなもと太郎さんが昨年の(?)手塚賞短編部門に強力に推したそうな。研究会にもいらしているマンガ家の山本夜羽音さんもMLで激賞していた。あ、検索したらはてなユーザーでらしたのか。この日付で詳しく書かれている。→id:johanne:20040225
藤本さんが『セーラームーンR』の映画が名作として名高い、とおっしゃっていた。そうなんですか?>識者の方々
笹本さんはドラマ『エースをねらえ!』が良かった、とおっしゃっていた。私は見てないので想像するしかないのだが、ヒロインが亡くなったコーチの日記を読むという最終回のシーンで、日記の文字が涙でにじむという演出が、多くのことを語っているのが素晴らしいとか。

藤本さん、伊藤さん、夏目さんらがなんと全会一致で「あれはいい!」と言っていた、よしながふみ『愛すべき娘たち』ISBN:4592132955(作者は『西洋骨董洋菓子店』の人)。この三人の意見が合うというのはすごいことのような気がしたので、帰りに買ってみたので後で読みます。
他にもいろいろ作品名が飛び交ってたけどマンガ読みじゃないのでよくわからなかった。アインシュタインを看取った看護婦みたいですいません。
シンポジウム中継を見てた方:id:ness:20040314#p2

*1:どうでもいいけど私は3日前id:AYS:20040311に初めてその存在を知り、脇を歩いて、無人駅で改札もないワンマンバスみたいな電車だなあ。駅間も近いし、と思ったのだった。タイムリーな例

*2:ビデオゲームでも、1回のロード時間が長いよりも、トータルでは同じ長さでも短いロードが頻発する方が長く待たされているような気になる(と思われる)のと同じだと思う

*3:『夕凪の詩』『週刊漫画アクション』2003年9月30日号に掲載され、現在では著者の同人誌で読める。通販はファンサイトhttp://kouno.mangalink.jp/からたどってください。池袋ジュンク堂などでも販売中。