マンガの読み方

昨日のICC「まんがの文法を知るために」で、その他考えたことをメモ。
視線の停留は主としてふきだしで起こり、絵は周辺視で見ている傾向にあることが明らかになった(というように私は実験結果から解釈した)。私なんかは画より脚本に興味が行くタイプなので自分の感覚としては当たり前なのだが、ちょっとだけ意外だった。
それはつまり、ほとんどの人が絵よりも文字の方に読み取りコストをかけているということなのだろう。
大野健彦さんは「『ブラックジャックによろしく』なんかはすごく緻密に背景が描かれているのに、みんな見てないわけです。アシスタントがかわいそうですよね」と冗談で言っていて、夏目房之介さんが後で「いや、ちゃんと見てなくても重要なんです」というようなことを言っていた。
バードウォッチングのようなものだろうか。鳥を見に行くために森へ行って、双眼鏡で注視するのはいつも鳥。でも、周辺視ではいつも森を見ている。ここでの森というビジュアルは何の影響も人に与えないのかというと、そんなわけはない。

絵と文字、どっちが表現として強いかというのはケースバイケースだと思う。でも、内容にもよるが(哲学論文とかじゃなくてたとえば日常生活で目にするような風景の場合とか)、一見して意味を読み取りやすいのは一般に絵の方だろう(それこそ「百聞は一見に如かず」)。絵の方が、情報を受け取る際に必要とするコストが一般的に少なくて済む。*1
文字の方に視線が停留したというのは、単に字の方が情報伝達性能が低いからというふうにも解釈できる。そもそも絵は周辺視でも割と見れるけど、文字は周辺視で読むのは難しい(気になるキーワードなら目に入るけど)。

マンガというのは、絵と文字という両方が併存するという特色を持ったメディアである。
すごく乱暴な議論になるけど、一般に活字だけの本よりマンガの方が読みやすいというのはもちろん絵があるからだろうし、それが今日のマンガというメディアの隆盛の大きな理由のひとつだと思う。

今回の実験では視線の停留する場所と時間を計測したにすぎない(もちろん大きな意味がある)。が、絵よりも文字の方に視線が停留したという結果をもって、絵よりも文字の方が重要などという結論にはもちろんならない。
調査する方法を編み出すのは難しいかもしれないけど、絵と文字が読者に対してそれぞれどういう効果を与えているのかも科学的に検証してみてほしいところ。

以下蛇足。フォント(書体)というのは、文字自体に絵的な意味づけをするわけで、その意味ではマンガよりもっとハイブリッド化を推し進めたものといえる。この辺は経験則と、研究で科学的に明らかになってる部分とかはどうなってるのかなと思った。ロゴデザイナーの人たちはやっぱり経験と感性でやってるのか、それとも多少は教科書的なノウハウみたいなのがあるのか。
そういえば、アジア圏は漢字という象形文字に親しんでるからマンガが好きなんだ、みたいな与太話もあるよなあ。その辺も科学的に検証してみたら面白いかも。

*1:描写する際のコストが、絵と文字のどっちがかかるかは微妙である。似顔絵を文字で表現しようとするととんでもない文字数が必要になる(無理かも)。でも「百万の軍勢が現れた」なんかは文字の方がずっと低コストである。