Approach-Avoidance Conflict

うーむ、いい話だ。でもって、すんごく悔しい。

「ゲーム性(Game Playability)」とは、ゲームの面白さを表した言葉だ。つまり、楽しいと感じるゲームはゲーム性が高く、つまらないと感じるゲームはゲーム性が低い、ということになる。
 桜井氏は、ゲームの楽しさである「ゲーム性」について、「リスクとリターン」という言葉に置き換えた。ここで言う「リスク」とは、ゲームをプレーしているときに、プレーヤーが感じる脅威のことを指しており、平易には、ゲーム中に怖い、危険だと感じることをあらわす。また「リターン」は、脅威のあるものを排除することを示す。つまり、ゲーム中に敵をやっつけたり、やっつけるに至る過程を表す。そして、この「リスクとリターン」を突き詰めることで、ゲームの面白さを説明できる、と桜井氏は説明する。

この辺の議論は、この日記のコメンテーターのうち、数人いらっしゃるゲーム理屈の鬼の方々にはおなじみの話であります。
つまり、「虎穴に入らずんば虎児を得ず」というシチュエーションのお話。

桜井氏は、スペースインベーダーにおける特有の仕様について説明した。それは、いわゆる「名古屋打ち」だ。スペースインベーダーでは、インベーダーが最も下まで攻め入ったら、その時点で砲台が何基残っていようともゲームオーバーとなる。しかし、その1段手前においては、インベーダーの攻撃が砲台をすり抜け、砲台が“無敵”の状態となる。
 つまり、このゲームにおいて最大のリスクが生ずるときに、逆に砲台が無敵になるという最大のリターンが発生するわけだ。もちろんこれは、読者の皆さんもご存じかと思うが、スペースインベーダーの仕様ではなくバグによって発生したものだ。つまり、制作者は意図していなかったことである。とはいえ、最大のリスクと最大のリターンが表裏一体で存在しているという部分は、もはや芸術としか言いようがないと桜井氏は指摘した。

うわ、その例を持ってくるか! 好例を探してくるという、私の好む芸風だけに、これを桜井さんにやられるとは思わなかった。
さらに。

 スーパーマリオブラザーズには、敵としてカメ(ノコノコやパタパタ)が登場するが、マリオがカメを踏むと、カメを武器として使えるようになる。マリオとカメの距離が離れているときには、リスクは小さく、リターンもない。マリオとカメの距離が縮まると、リスクが高まっていく。そして、あと一歩でやられるという距離になり、マリオとカメの座標軸が一致した瞬間、つまり最大のリスクが発生するところでマリオがジャンプしてカメを踏みつぶせば、カメを倒せるという最大のリターンが発生する。しかも、甲羅を武器として使えるという特典もついてくる。とはいえ、カメを踏みつぶすときの位置が少しでもずれると、マリオはやられてしまう。
 つまり、スーパーマリオブラザーズでは、リスクとリターンが非常に近い位置に設定されている。ぎりぎりまでリスクを高めておいて、一気にリターンを得るというゲーム性になっている。

この話、私もこの日記で以前ちょっとだけふれたんですよね。
http://d.hatena.ne.jp/AYS/20031128

ところが『スーパーマリオ』では、踏むというアクションが生まれました(『マリオブラザーズ』の頃からやりたかったらしいのですが)。
しかしながら、敵とプレイヤーキャラの接触=プレイヤーキャラのミス という大前提への追加ルールということになります。
かくして、敵と接触しないようにするゲームと、敵と接触しなければならないゲームという、ある意味矛盾した二つのゲームが並列して進行することになります。
しかしながら、こうしたジレンマはゲームをよりゲームらしくします。(長くなるのでこの話はとりあえずここまで)
接近と接触という話はシューティングを語るときの大テーマなので、またそのうち。

と、宿題にしてそのまま語らないままで来てしまったのですが、宿題を片付けないうちに桜井さんにきれいにまとめられてしまった感があります。

で、ふたたび桜井さん講演レポートですが。

 その後、対戦格闘ゲームやレースゲーム、RPG落ちものパズルゲームなど、いくつかのジャンルのゲームについて、同様にリスクとリターンという言葉を使って面白さを解説していった桜井氏。

これらのゲームジャンルにはそれぞれどんなリスクとリターンがあるか、桜井さんがどんな例を出したのか、みなさんも想像してみると勉強になると思います。(←誰に言っているんだ)

なお、情報源はhttp://d.hatena.ne.jp/takanabe/20040331。最近毎日一番楽しみに見てるのがこのたかなべさんのところ。制作されたゲームが発売されたらしいんだけど、どれのことなんだろう。