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宮部みゆきICO』読了。
後半、ネタバレを書くので、本来末尾に書くことを先に書くが、ゲームの再ベスト版は8月に1800円で出るらしい。遅いよ。というか、ベスト版を売り切るつもりなのか? でも店頭にあんましないと思うけど。SCE、あんまり気が利いてません。
さて、小説版だが、なかなか面白かった。ミヤベ先生の作品を初めて読んだのだが、やはり推理小説家なのだなあ。序盤で伏線を張り(多くはイコの幻視による)、後半で謎解きをしてみせる。
プロローグなど、ゲームに描かれていない部分の記述も当然多いが、ゲームで描かれている部分も、けっこう変更されている。
これは読む前からそうなんだろうな、と思っていたところなので、「俺の『ICO』と違う!」というようには思わない。むしろ、ゲームの補完版ではなく、あくまでゲームとは別物の『ICO』という性格が明確になってよいと思う。
▼以下、ゲームのネタバレ、小説版のややバレ
小説では、中盤ぐらいからヨルダはイコの言葉がわかるようになる。ただし、最後まで、イコはヨルダの言葉がわからない。この差は割と大きい気がする。
ただし、私はあえて、ヨルダの台詞に日本語字幕がつくようになるゲームの2周目をやっていない。2回もやるのが面倒くさいというのもあるが、おねえちゃんはぼくにはわからない言葉を話すから神聖かつ神秘なのであり、言葉がわかってしまうと興ざめしてしまう部分があるのではないかと思うからである。だから、小説のヨルダの台詞が、ゲームでの台詞とどこまで同じなのかよくわからない。その意味で厳密な比較はできない。
もちろん、小説版は、ゲームでの私の解釈と違いが多々あった。たとえば、イコの角は私は呪われし者の象徴であり、だからこそエンディングでは折れているのだと解釈した。だが、小説ではむしろ聖なる象徴に近い気がする。個人的には呪われた小さな者が、その知恵と勇気で何かを成し遂げる、という構図の方が好きだ。
小説では、驚くことに、「影」の正体が序盤で明かされてしまう。中盤の作劇上、やむをえないと思うのだが、私は終盤のあのシーンでめったにない驚きと戦慄を覚えたので、それがなかったのはやや残念である。その代わり、小説のそのシーンはまったく違ったものになっている。
エピローグシーンも、ゲームで見たのとかなり違った印象を受けた。ゲームではヨルダが影になり、イコを独り小船で逃がす。ヨルダを助けるために戦ってきたイコが、逆にヨルダに逃がされてしまう。しかも、白く光り輝いていたヨルダは影になってしまう。このやるせなさ。しかし、小説でのニュアンスはかなり違う。

中盤、ヨルダの一人称のストーリーになるのは、女性作家ならではというところだろうか? ゲームではおねえちゃんの言っていることがわからない、城から出たいのか出たくないのかその心がわからない、という、イコとヨルダの、プレイヤーとおねえちゃんのディスコミュニケーションが核としてあり、その上での手を繋ぐというコミュニケーションがポイントだった気がするのだ。

……等々、私の『ICO』のツボとはかなり違う。しかし小説というメディアでは、宮部の選択は正しいと思う。よい作品をありがとうございました。『ICO』次回作への追い風となるといいなあ。