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天気がいいので、付近の行ったことがない場所を散歩してみる。まず今朝のNHK新日曜美術館」で特集していた熊谷守一美術館を横切り、千川駅へ向かう。
途中、近所に住んでる芸術家椿さんに伺った、昨年亡くなった彫刻家峯孝が住んでいたというアトリエを横切る。千川駅前の松屋で290円の豚めしを食う(牛めしは休止していた)。裏の千川彫刻公園へ行ってみる。http://parkandcats.hp.infoseek.co.jp/senkawatyoukokukouen.htmlによると、彫刻家中野素昴のアトリエがあった場所だという。数は少ないが、なかなか面白いポーズの彫刻があった。峯孝のとか。
要町通りを隔てたこのエリアには通り沿いまでしか行ったことはなかったので、趣の違いに驚く。瓦屋根の家がけっこうあるなあ。中には木造のものまであった。

さて、要町駅方向へ向かう。目的地についてだが、先日http://d.hatena.ne.jp/AYS/20040210埼玉近代美術館の話を地元の芸術家の椿さんにすると、斎藤与里という画家が近くに住んでたらしいことを知ったのだった。
その場所は、現在喫茶店になっているという。店の名前は「ショパン」で、そこのマスターはクラシックの解説なども書いていて割と有名らしい。その奥様が、斎藤与里のお孫さんとのことだ。お店にも与里の絵が数点あって、ぜひ行くとよいと言われた。ということで検索したら、http://www.geocities.co.jp/Milano-Cat/9381/music2.htmlというページを見つけ、マスターのお名前が宮本英世氏だということまではわかったが、細かい住所などはわからなかった(後で考えたらタウンページで調べればよかったのだが)。
とりあえずそのページに書いてあった情報と、椿さんに伺った情報を元に、えびす商店街をずんずん進む。思ったより長い商店街だなあ。3倍ぐらい長い。ようやくつきあたりまで来て、左折したら駐車場しかない。近所の酒屋のおばさんに道を尋ねたら、つきあたりよりもうちょっと手前で左折すべきだったようだ。なだらかな上り坂の途中にその店はあった。

ショパン
〒171-0042 東京都豊島区高松2丁目3−4
営業時間9時〜19時(ただしお客さんが少ないと18時頃閉店)

タウンページ→http://itp.ne.jp/servlet/jp.ne.itp.sear.SBSSVOneInfoSearch?Media_cate=populer&cont_id=a00&kid=KN1301012600019906&syo=1


意を決して入ると、お客さんは誰もいない。奥様が一人でいらした。マスターはお仕事で外出中らしい。クラシックに興味がないわけではないが、斎藤与里を目的とした訪問なので、むしろお孫さんとお話できてよかったともいえる。
来年は斎藤与里生誕120周年なので、長野県の碌山美術館で企画展が行われるようだ。

日曜ということもあってか、店内ではNHK FMがかかけられた。このお店のことを知った経緯などを話したり、マスターの著作を読ませていただいたりする。
http://bookweb.kinokuniya.co.jp/guest/cgi-bin/wshosea.cgi?W-NIPS=9977700389

宮本英世[ミヤモトヒデヨ]
1937年、埼玉県生まれ。東京経済大学卒業後、日本コロムビア洋楽部に入社。その後、リーダーズダイジェスト音楽出版部、トリオ(現ケンウッド)系列会社経営を経て、若いころからの念願であった名曲喫茶ショパン」を開く。現在「ショパン」経営のほか著述、講演、講座、CD・テープ製作なども手がける

ほどなく、女性のお客さんが1人来店。そしてまたしばらくして、男性のお客さんがまた1人。どちらも常連さんのようだ。(場所柄、常連さんしか来ないのかもしれない)
女性のお客さんはしばらくして帰ったが、男性のお客は私の横の席に座る。奥様が何かかけましょうか、と尋ねるが私に気兼ねしているようだ。私が今回の訪問目的を明かすと、持参されたCDをかけた(モーツァルトの比較的マイナーな曲とのこと)。
聞けば、この方も音楽評論家だそうだ。渡辺和彦氏とおっしゃる。
http://bookweb.kinokuniya.co.jp/htm/4309266711.html

渡辺和彦[ワタナベカズヒコ]
音楽評論家。1954年9月北海道生まれ。1977年3月立教大学文学部ドイツ文学科卒業。以後、音楽雑誌記者を経て、1982年から1989年まで、FM東京(現TOKYO・FM)「夜明けのプレリュード」、「野田秀樹のスイッチ・オン・クラシック」他の企画、構成、プロデュースを担当。1986年から2003年3月まで、NHK・FM「朝の音楽散歩」「ミュージック・ダイヤリー」「あさのバロック」の企画、構成。この間、同FM「海外クラシック・コンサート」の解説者、同「クラシック・サロン」の案内役として、内外の多数の現役音楽家とインタビューや生放送トークに出演。1999年まで、朝日新聞夕刊文化面で毎月のクラシックCD選評者。2001年初頭まで「グラモフォン・ジャパン」誌で、主に弦楽器のCD批評を担当。現在は東京新聞、そのほか地方紙各紙、「CDジャーナル」「現代ギター」などに批評や記事を連載、または執筆

これ幸いと、最近のクラシック音楽業界や、昔のレコード文化についてなどのお話を伺う。とても有意義な時間を過ごすことができた。
「卵とレコードは昔から値段が変わっていない」という。昔はレコードは高価で、いまでいうと1枚6万円ぐらいしたそうだ。だからこの曲が欲しい、と思ったらどの指揮者・オーケストラのものにするか真剣に悩まなくてはいけない。1枚買ってしまったらもう同じ曲の違うレコードを買うことなどできないのだ。マスターもレコードをもらうためにコロムビアに入社したようなもの、とか。むしろ今では価格破壊になっていて、タワーレコードの輸入版バーゲンでは6枚入りボックスが3000円になっていたりするという。
あと音楽業界不況の話で、CCCDの話も出たのだが、氏はCCCDに反対しておられた。規格外なので機器が壊れたりする場合もあるらしい。知らなかった。(検索したら氏の過去の記事を引用しているページ発見→http://cccd.fc2web.com/cccd_48.htm
名曲喫茶とかジャズ喫茶では、おしゃべりをしたり本を読んだりしてはマスターに怒られて、マジメに曲を聴かねばならないという話を聞いていたので、緊張していたのだが、この店はそうではなくて、むしろクラシックを聞きながら語り合うサロンなのだという。実にいい。(私はタバコが苦手なので、その辺だけは困るが)
アナログ盤しか認めてなくて、CDは邪道だ、とか言ってるのかなあとか想像していたのだが、マスターも渡辺さんもCD派だという。むしろ10時間とか曲を流さなければならない名曲喫茶でレコードだと、盤も痛み、高価なレコード針代がバカにならないからCDになってよかった、とは渡辺さんは語る。なるほどなあ。

店内のスピーカーがある方の壁面中央には、フルトヴェングラーの肖像がかけられていて(マスターの趣味というよりはお客さんの寄贈だそうだ)店内に睨みを利かせているが、反対側の壁中央には斎藤与里の「少女」と題された素朴な絵がかけられている。
斎藤が溺愛した娘(奥様のおばにあたる)がモデルだそうだが、女性がソファに座り、目を閉じ腕を組んで気持ちよさそうにしている。傍らにはヴァイオリンがおかれている。おそらく音楽を聴いているのだろう。この上なく穏やかな絵だ。
その絵が、まさにスピーカーに正対した中央にかけられている。つまり、この店でかかる音楽を、ずっと一番いい場所で聴いているのは、絵の中の彼女だったわけだ。
まさにこの絵が飾られる場所はこの場所をおいてほかにない。「いい絵」をいくつも見てきたが、「その場所にある」ということ自体が魅力になっている絵を私はまだ他に見たことがない。
実に愉快な午後であった。