ゴドーを待ちながら

昨日は『逆転裁判3』のゲームシステム・演出等について語ったわけですが、今日は設定・話の内容について語ろうと思います。しかも具体的なミステリーのネタバレなしで!(『1』『2』のネタバレはありますので注意)
プレイして驚きました。今回の悪役は、私がプレイした中でゲーム史上もっともとてつもなく、果てしなくドス黒い悪ッ! ディオや吉良吉影ディアボロがかわいく見えるぐらいです。ゲームがこれほどの悪を描けたとは。あるいは、描いてよかったのか。パッケージの「CERO12歳以上対象」マークは、単に殺人を描いているからだと思うのですが、ちょっと小学生にはヘヴィすぎるんじゃないかと。私が小学生だったらプレイしてトラウマになるのでは。
また、『2』のときは『2』から始めて後で『1』をプレイする人のために、『1』の犯人については可能な限り言及を避けていました。しかし今回はシリーズの総決算的位置づけのようなので、前作までの犯人やキーアイテムについての言及があったりします。
そして前作まで「極刑もありえます」という程度の言葉でぼかしていた「死刑」に関する直接的あるいは間接的言及が何度もあるのが今作の特徴です。
この「とてつもなくドス黒い悪」という存在と「死刑」というワードが、『逆転裁判3』全体を支配しているように感じられました。

『1』の最終話は御剣検事の長年のトラウマからの解放というテーマがありました。またなるほどくんが1話で矢張を信じて疑わなかった理由、そして弁護士になってまで御剣を救おうとした理由である、学級裁判という心温まるエピソードの紹介もありました。ついでに言えば、最後に真犯人につきつけるアイテムも意外性があり、「勝利」する快感に十二分に貢献していました。
『2』の最終話も、1〜3話の不振を挽回するほど燃える展開で、「弁護士」という立場と「求めるのはただ一つの真実」という矛盾という大胆な設定(キリコさんのhttp://red.ribbon.to/~kiriko/game3.htm参照)。そのジレンマに陥らせながら、「正義」の遂行ともっとも大切な人物の救出という、この場合は相反する目的を同時に達成するための最後の解決法もふるっていました。
とにかく、『1』も『2』も、最終話は「救い」と「正義」を同時に遂行する物語であり、それは無実の被告人やトラウマに苦しめられる人間といった弱い人々を救済し、真犯人に正義の審判を下させるという、ゲーム『逆転裁判』の(ミステリー性と並ぶ)テーマそのものの体現でもあったのです。

ところが『3』では後味が悪い。エンディングでかすかな「救い」の表現はあるものの、そんなもので『3』全体を支配する重苦しさは払拭できません。『1』『2』のラストには真犯人に対する完全なる勝利という正義と、救済が残りましたが、『3』のラストに残るのは、とてつもなくドス黒い悪の記憶と、殺された者の記憶だけです。
これがとても残念でした。

……と、これまで不満点ばかり書いてきましたが、ネタバレを避けるとこれぐらいしか書けないからなのです。数々の工夫があり、賞賛すべき箇所も多いのは確かです。たとえば前作までのキャラクターのファンへのサービスすらも伏線としていたりとか。最終話がとても複雑だけど(細かいツッコミ点を除けば)破綻してないとか。
もう一回プレイしていろいろ検証して何か語りたいところですが、今回はとても長いのでリプレイへの食指が伸びません。『2』の段階ですらそうでしたから。どうしたものか。

引用:http://d.hatena.ne.jp/cruyff/20040203