二十四の瞳

TSUTAYAが100円レンタルを29・30日までやってると知って借りにいく。1日出遅れたので借りたかったものはだいぶ貸し出し中。
しかしながらせっかくなのでいろいろ借りてみた。
まずけっこう見て見たかった1997年リメイク版の『12人の怒れる男 表決の行方』http://jtnews.pobox.ne.jp/movie/database/treview/re1145.html (VHS字幕版)があったので、以前一度見て大変面白かった1957年オリジナル版『十二人の怒れる男http://jtnews.pobox.ne.jp/movie/database/treview/re1108.html (DVD版 日本語吹き替え入り)も併せて借りる。
リメイク版が思いのほかオリジナル版に忠実で驚く。女性はいないものの(タイトルのせい?)黒人が入ったりしているが、脚本的には大した差ではなく、馬鹿正直なほど忠実。ゆえにダメリメイクにはなっていないのだが、新規性がないと批判されても仕方がないだろう。しかし元々の脚本が(ミステリもの・ディスカッションものとして)究極的なので、リメイク版でも思わず引き込まれてしまった。食い入るように映画を見たのは久しぶりだ。
テンションが上がったので、オリジナル版、以前録画しておいた好きな作品『12人の優しい日本人』(1991 脚本・三谷幸喜http://jtnews.pobox.ne.jp/movie/database/treview/re1178.htmlと連続で3本見てしまった。45分のテレビドラマ1本でさえ一気に見るのがタルいと感じる私にそんな集中力があったのか。
で、見比べてみてけっこういろいろ発見があった。
キリコさんに推薦されて読んだ私の数少ない愛読書であるところの瀬戸川猛資『夢想の研究』によると、『怒れる』の原作はテレビドラマで、「わたしの直観によれば、原作のレジナルド・ローズのテレビドラマは、レイモンド・ポストゲートの小説『十二人の表決』とアントニイ・バークリーの『毒入りチョコレート事件』の二作から大きな影響を受けている」(p.17)という。
時系列的な流れとしては、
『表決』『毒入り』→ローズドラマ『怒れる』→ローズ映画『怒れる』→三谷舞台『優しい』→三谷映画『優しい』→リメイク『怒れる』
ということになるようだ。もちろん、リメイクは『優しい』の影響を受けてはいないのだろう。
(※以下ネタバレ含む)
しかしながら、『優しい』の最後の決め手の「ここで裁かれているのは被告なんです。あなたの奥さんじゃない」と同じ台詞が、
『怒れる』リメイク版には「あの子はあなたの息子じゃない」とあるのだが、
オリジナル『怒れる』にはその台詞そのものはなかった。同じく息子に裏切られたことを語るのだが、自分で気づいたらしく、他人に指摘されるまでもなく「無罪だ」と言うのである。
リメイクするときに他人に言わせたいと思ったということなのだろうか。

以前に見たときは間をおいて見たので、『優しい日本人』は『怒れる男』ほとんどそのままで笑いの要素を加味した程度だと思っていたが、同じシチュエーションが出てくるだけで、構成自体はかなりひねってあった。
『怒れる』が 11人が有罪→全員無罪 というシンプルな流れなのに対して、
『優しい』は 全員無罪→11人が無罪→計画殺人説浮上 一転して有罪ムードに→やっぱり全員無罪(振り出しにもどって終わる) と二転三転してかなり構成がひねってある。
しかも、『怒れる』で最初に「ちゃんと話し合いたい」と言って唯一無罪を主張してみたヘンリー・フォンダ(リメイクではジャック・レモン)が、最後に被告人と自分の息子を重ねて意地になっていた男を説き伏せて終わるというように、明らかにフォンダが正義の主人公な感じなのに対して、
『優しい』では最初に「ちゃんと話し合いたい」と言って唯一有罪を主張してみたメガネの男は、最後に被告人と自分の妻を重ねて意地になっていた男と同一人物なのである。
『優しい』では探偵役が次々と入れ替わり、群集劇・ディスカッションものとしてより面白く、ミステリとしても面白い。
これまでは「殺してやる」が「死んじゃえ」となっていたり、「見間違いと思い込み」など、ミステリ部分もけっこう流用しているような気がしていたが、意外と独自に作っていた。
『怒れる』は結局真犯人がわからない。というよりむしろ陪審員たちが行ったことは証人による証言の信憑性が薄いことを証明しただけで、冷静に考えると状況証拠から被告人が真犯人である可能性は依然濃厚であるともいえる。
それに対して、『優しい』はかなりの点において陪審員は建設的な推理を展開している。真相は完全にははっきりしないとはいえ、ほとんどすべての点において説明をつけてくれている。
『怒れる』を換骨奪胎してここまでのミステリ(しかもコメディとしても楽しめる)を書いた三谷幸喜恐るべし。後に『刑事コロンボ』をやはり換骨奪胎して『古畑任三郎』を書くのも推して知るべしである。

……ところで、いま検索して見たら、筒井康隆が『12人の浮かれる男』というのを書いているようだ。これも読んでみるべきか?