Noli me tangere

さっそく「美しく燃え尽きよ」の『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』評より
http://sarry25.fc2web.com/list_game/sonic/sonic.htm

 この「スピード感」をゲーム性に取り込むために、一番工夫されている点は、見逃しがちだが、攻撃方法が「体当たり」だということである。飛び道具を使うアクションゲームも多いが、飛び道具の場合は一旦相手に狙いを定めなければならないし、剣などの場合も、振りかざすという必要上、やはり立ち止まらなければならない。自然に人の心を納得させるためには、「体当たり」が最も妥当だったのである。そして、この攻撃方法は「ハリネズミ」というキャラクターにぴったりとマッチしており、何より、「キャラクタとの一体感」を十分に感じさせてくれるものである。

ソニックがなぜハリネズミなのかという話。
例によって続編ではキツネみたいな黄色いイヌでも同じアクションができたりしちゃっておりますが。

アクション系ゲームにおいてもっとも重要な要素のひとつがいわゆる「当たり判定」ですね。
あるエネルギー(攻撃とか)がある物体(キャラクター)にヒットしたかどうかによって何かが変わります。
プレイヤーはあるときは避ようとし、あるときは当てようとします。
(正確に書くと「プレイヤーはあるときはキャラクターに避けさせようとし、あるときはキャラクターに当てさせようとします」なのですが、煩雑なので使役表現は避けます)

今ではそのようなゲームはだいぶ少なくなりましたが、ファミコンの頃のアクションゲームでは敵に接触するとプレイヤーキャラがミスになる(あるいはダメージを受ける)ゲームがほとんどでした。
しかしよく考えるとおかしい。敵の体が触っただけで死ぬような毒で覆われているとか、高圧電流が流れているならともかく、戦闘者として対等なはずなのに、接触しただけでプレイヤーキャラの方だけ一方的にやられてしまうのはどういうわけなのか。当時は疑問を持っていました。

それぞれ『ファイナルファイト』『スト2』と似たタイプのゲーム『スパルタンX』『イーアルカンフー』などでは、敵と接触しただけではダメージは受けず、パンチやキックなどがヒットするとダメージとなるシステムになっていて、当時新鮮に感じた記憶があります。

まあ、接触したか否かというのは視覚的にわかりやすく、視覚のゲームであるビデオゲームにぴったりのシステムであったからなのですが。
既存のゲームであった「おにごっこ」などでも、タッチされるとミスになるというルールが特に違和感なく受け入れられていたという下地があったということも関係あるのかもしれません。

逆に、3Dのゲームでは2Dのモニターでは距離感を把握しづらく、当たっているのかどうか・当たりそうなのかどうかがよくわからないので、当たり判定はさらなる問題を生み出しているのですが。

さて、この接触=攻撃というシステムはシンプルではありますが、矛盾も孕んでいます。
ドンキーコング』では、ハンマーを取るとマリオは自動的にハンマーを振り(ちなみにアクションボタンをジャンプひとつだけにするためだったそうです)、ハンマーが敵と接触したときのみマリオは敵を攻撃できました。
マリオブラザーズ』では、敵に接触してミスにならないのは敵が気絶している間だけ、というルールとなっていて、敵への攻撃方法は床の下からパンチで叩く、という独特のシステムでした。
ところが『スーパーマリオ』では、踏むというアクションが生まれました(『マリオブラザーズ』の頃からやりたかったらしいのですが)。
リンクの基本アクションが「剣を振る」ひとつであるように、マリオの基本アクションはまた、言うまでもなく「ジャンプする」ひとつです。
ジャンプを用いて攻撃するなら、選択肢は限られます。
既出の「下から床を叩く」というのはなかなか凡人にはできない発想ですが、それ以外でよくありそうなのはとび蹴りか、ジャンプして位置エネルギーを利用し、落下しながら踏みつける(プロレス技では何て言うんでしたっけ?)程度でしょう。

マリオは身長の何倍もジャンプすることが出来、なおかつ敵の身長はマリオとほぼ同じであるため、水平方向からの飛び蹴りというのはあのキャラクターサイズでは成立しません。
というわけで、基本アクションが「ジャンプ」である以上、攻撃方法が「踏んづける」になったのは当然の帰結だったと思われます。

しかしながら、敵とプレイヤーキャラの接触=プレイヤーキャラのミス という大前提への追加ルールということになります。
例外:プレイヤーキャラが上側で敵キャラクターが下側の位置関係になる接触は敵キャラ側のミスとなる
と、位置関係によってミスする側が逆転してしまう追加ルールができるわけです。

これはけっこうややこしい。理屈としても微妙に不明です。靴が丈夫だからなのか? いやいやトゲゾーはもちろん、パックンフラワーも踏んではいけません。
かくして、敵と接触しないようにするゲームと、敵と接触しなければならないゲームという、ある意味矛盾した二つのゲームが並列して進行することになります。
しかしながら、こうしたジレンマはゲームをよりゲームらしくします。(長くなるのでこの話はとりあえずここまで)

さて、引用部にあるように、『ソニック』では、ソニックが丸まった状態で高速で移動している場合での接触は(基本的に)敵側のミス、というルールになっているわけですが、その分「避けるゲーム」としては割と大味な作りになっていたような気がします。(あんまりやりこんでないので無責任な発言ですが)
避けるゲームとしてあまり緻密でないのは、おそらくメガドライブの凄さを表現するために、各キャラクターのサイズが大きめになっているのにも関係があるでしょう。
また、ソニックではマリオでいうコインが「リング」として登場し、スーパーキノコの役割も持っています。リングを1枚も持っていないとダメージ=即ミスですが、リングを1枚でも持っているとスーパーマリオがダメージを受けてチビマリオになるようなミスの執行猶予があります。
スーパーマリオと違うのは、ソニックは敵と接触すると取ったリングがその場でばらまかれ、すぐにもう一度取ってリカバリーできるという点です。この辺の甘さも、避けるゲームとしての大味さと関係があるのかもしれません。
とはいえ、ソニックの終わりの方の面は避けるゲームとしてかなり厳しいのですが。

接近と接触という話はシューティングを語るときの大テーマなので、またそのうち。