THE 推理

久々に見たら、dotimpactさんのブログが再始動していた。
http://www.kaisoku.com/dotimpact/qv/index.php?itemid=51

■ think-routine #25 『特権の剥奪について −いまさらの「ファウスト」と「新現実」ー』
■ごたぶんに洩れず僕も小説現代10月増刊号「ファウスト」を購入して、東浩紀「メタリアル・フィクションの誕生」を読んでみていたりするわけです。個人的には、東さんのゲームに関する言及ではじめて納得できる内容の文章だったような。
……
■さて、しかしこの東さんの「メタリアル〜」でのゲームに関する論旨の多くは、「新現実」Vol.2の佐藤心さんの論文を整理したものらしく、その論文にいまさらながら興味を持ったのでした。ということで、Vol.1は買ったけどVol.2は買ってなかった(わかりやすいな)「新現実」を買ってきて佐藤さんのギャルゲー論文を読んでみました。そして反論をちょっと。
……
つまり佐藤さんは、ギャルゲーが構造として探偵小説に接近していることを指摘して、「探偵」という特権者が解かれるべき謎を読者の目の前で解いてみせる探偵小説と同様に、ギャルゲーは「プレイヤー」という特権者を含めたドラマを提供することで小説とは異なるエンターテイメントである「ゲーム」として成立しているのだ、と主張しているのだと思うのですが、しかしこれは完全に逆転した議論ではないですか。ギャルゲーが探偵小説に接近しているのではなく、探偵小説やミステリーが持っていた構造のゲーム的側面を抽出して、先人がアドヴェンチャーゲームというジャンルを成立させ、その子孫としてビジュアルノベルをはじめとしたギャルゲーが存在している、というコンピュータゲームの歴史があったのであり、ギャルゲーのシナリオはそのアドヴェンチャーゲームの構造に規定されているに過ぎないのです。そしてその限りでは変死体が萌えキャラに、殺人犯が女の子のトラウマに変奏されているに過ぎず、そこにギャルゲーの特殊性などはないだろう、と僕は考えます。いくら探偵小説とギャルゲーの本だからって(違うか)、その間にあるコンピュータゲームの歴史をまるごと無視するのは、そんなバカな、と思います。

なんかとても面白そうな話だなあ。「新現実」2号をどこかで入手して読んでみなければ。図書館には国会図書館にしかないのかなあ?

探偵小説やミステリーが持っていた構造のゲーム的側面を抽出して、先人がアドヴェンチャーゲームというジャンルを成立させ

というのは、一般にそう認識されているけど、必ずしもそうとはいえないのではないかと思っている。(dotimpactさんの文脈とは関係なくなるけど)
私の『逆転裁判』のコラムhttp://www.intara.net/og/gyakuten.shtmlに書いたが、

当然のように、推理もののゲームではプレイヤーは主人公の探偵となり、事件の謎について推理し、それがゲームをクリアすることになる――ような気がするかもしれないが、これまではたいていそうではなかったのだ。
……
なぜかというと、これまでの推理ものゲームでプレイヤーが一番労力を割かねばならないことは、実は推理することではなく、物語を展開させることだったからである。

日本の推理アドベンチャーゲームは『ポートピア連続殺人事件』に始まり、ほとんどがその直接間接的な影響を受けているのだが、そのほとんどが「推理」をゲームデザインの主軸にしたとはいえない。くだらないフラグ立てがプレイヤーのやらなければならないことだった。
かまいたちの夜』は強制選択肢により、フラグ立ての労苦はなくなったが、最後の推理は犯人の名前を入力するというものであり、唐突に結論(犯人の名)を要求されるだけで、なぜそういう結論に至るのかという過程への推理にプレイヤーをうまくアプローチしているとはいえず、どちらかというと当てずっぽうで名前を入力するゲームだったように思う。『かまいたち』の主軸はサスペンス・ホラーを鑑賞することであり、推理とはいえなかったと思う。(これは『2』でますます加速される)
御神楽少女探偵団』の「推理トリガー」にしても、過程へのアプローチへの取り組みとしては評価できるが、「ポートピア」的なシステムがベースで、フラグ立てに推理を必要とするパズルを導入しただけ、というふうにいまからすれば思われる。(とはいえ、さわり冒頭しかやったことがないので、この私の見解は見当はずれかもしれない)
逆転裁判』は「探偵モード」こそ退屈なポートピア式フラグ拾いゲームだが、法廷でのシーンは推理のみによって進行し、まさに推理がゲームデザインの主軸となった歴史的瞬間だったと思う。

シンプル2000シリーズで、おそらく『逆転裁判』の影響を強く受けたであろう『THE 裁判』というのが出るらしい。(情報源:http://www.famicom-plaza.com/news/news.htmlの10月7日)
カプコンがパクリで訴えたら、本当に裁判で面白いなあ、とか不謹慎なことを一瞬考えてしまった。安いので買うかも。

*『逆転裁判3』体験版・予告映像配信開始(10日)http://www.capcom.co.jp/saiban3/