「デッドゾーン」に学ぶ選択肢で分岐するストーリー

私が最近、面白いと思って見ている海外ドラマは、「LOST」と「デッド・ゾーン」です。
ダントツに面白いのは「LOST」なのですが、ゲームシナリオを作る側からすると、「デッドゾーン」がとても参考になると思うので、今回はこちらを紹介しましょう。

デッドゾーン」といっても、「キャリーどえぇ〜す」のことではありません。(←ディスクシステムを知らない人にはわからないネタ)

物や人に触っただけで過去・未来のことが見えてしまうという男のドラマ。
なぜゲームシナリオの参考になるかというと、「選択肢によって展開が変わるドラマ」だからです。(詳しくは後述)

スティーブン・キングの「THE DEAD ZONE」という1979年の小説を原作としたもので、映画にもなってます。

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テレビドラマ版は、原作・映画の設定を下敷きに、1話完結ドラマとしています。

どういうストーリーかというと、

※以下、あらすじはAXN|デッド・ゾーンより
http://axn.co.jp/deadzone/index.html

第1話「運命の紡ぎ車」 Wheel of Fortune

順風満帆な生活を送る高校教師のジョニー・スミスを、不運な事故が襲う。昏睡状態に陥ってから6年が経ち、奇跡的に意識を取り戻したジョニーには、触れただけで人の過去や未来が見えるという不思議な能力が備わっていた!その6年の間に母親は他界、婚約者のサラは別の男性と結婚し、息子が生まれていた。

なお、原作・映画版では、息子(実は父親は主人公ジョニー)は出てきません。


主人公のジョニーは、物や人に触っただけで、過去や未来を幻視します。
特に、未来のことが見えたとき、それはたいてい誰かが死ぬとか、悲劇です。

ジョニーはその悲劇を回避すべく、未来を変えようと奔走するのです。
これって、ゲームで「バッドエンドになったのでリセットして、選択肢を選びなおす」のというのと、まったく同じなのです。
実質的に、タイムスリップものと同じともいえるでしょう。

以下、選択肢的なストーリーが好きな人にオススメ、あるいはゲームシナリオ作成の参考になりそうなエピソードを紹介します。
1話完結式なので、基本的にどの話から見ても問題はないです。
DVDは、それぞれ13話・19話入って1万円以下という低価格。

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パラレルワールド
この手の話でオススメエピソードはこちら。

8 第8話「地獄の炎」 Netherworld

ある朝目覚めたジョニーは、運命を変えた事故など起っていず、サラと結婚し二児の父親となっている自分に驚く。その幸せな生活の中で、なぜか火傷を負った人々に出会うのだが、それが暗示する事とは…?

↑「もうひとつの人生」系の話ですね。

第9話「ジグソー・パズル」 The Siege

サラが立ち寄った銀行に強盗が押し入る。銀行の外でサラを待っていたジョニーは事件を透視。警察へ連絡する手配をした後、犯人も人質も全員死亡する悲劇を回避すべく、自らも人質に加わり犯人を説得しようとする。

↑このエピソードは、「街」というゲームにとてもよく似ています。
まさに選択肢を選びなおすことによって変わる因果のパズルを解いていく話。
誰かを助けようとすると、別の誰かが死んでしまう。はたして正解の選択肢はあるのでしょうか?
銀行強盗との心の交流もポイント。

第18話「6人のドナー」 Precipitate

交通事故に遭い、輸血を受けるジョニー。命に別状はなかったが、献血した6人の血液が原因で、28日間はジョニーに何らかの影響がある、と医者に告げられる。予告どおり、ジョニーは次々に6人のvisionを見始めるが、そのうち1人のvisionにジョニーとブルースが動き出す。

↑これも「街」に似ています。
6人のうち、誰かが死ぬことはわかったが、誰が死ぬかはわからない。
その死を止めようとするのですが、6人とも何か問題をかかえていたのでした。
パズルのピースがきれいに収まるラストは見事。
アメリカ版「電車男」みたいな奴が出てきます。

第21話「恐怖のフライト」 Cabin Pressure

講演会でスピーチをすることになっているジョニーは、パーディとワシントンDCへ向かう飛行機に乗った。だが、機内でクッキーを配る客室乗務員らに触れた時、飛行機が墜落するvisionを見る。ジョニーは機長にその事故が起こることを説明しようと必死に試みるが…。

↑これは何をしてもうまくいかない、無力系。密室劇ながら、派手なビジュアルが楽しめる話です。

第24話「神の真似事」 Playing God

ジョニーのもとに高校時代の友人ジェイソンと妻エリン、彼の妹ケイトが訪ねてくる。ジェイソンは重度の心臓病を患っていて、自分の将来を見て欲しいと手を差し出す。手に触れたジョニーはジェイソンの心臓移植手術が成功するvisionを見る。だが、その移植された心臓は…。

↑ジレンマものです。
Aさんを助けようとするとBさんは死んでしまう。Bさんを助けようとするとAさんは死んでしまう。

第28話「デジャ・ヴードゥー」 Deja Voodoo

ジョニーはブルースと食事にきたレストランのバーで、あるvisionを見る。席に座ろうとしたとき、保険の損害査定にきていたナタリーに偶然触れてしまったのだ。動揺するジョニー…。なんと、ナタリーとジョニーがキスをしているvisionだったのだ…。

↑これは、「何度も繰り返す世界」系ですね。


さらに、原作にないアイデアで、ドラマのジョニーは時を超える!(え!)

第12話「シャーマン」 Shaman

巨大な隕石が墜落するヴィジョンを見て山中に入ったジョニーは、洞窟内で過去の世界に繋がり、先住民のシャーマン(呪術師)と出会う。言葉が通じない中、やがて理解しあった二人は、ある危機が迫っていると知る。

第32話「ヴィジョンズ」 Visions

以前からジョニーの前に姿を現していた男が、また現れる。「アルマゲドン(世界の終わり)」について何か知っている様子のその男は、ジョニーに手遅れにならないうちにニューヨークのある家を訪ねるように言う。ジョニーはすぐその家に向かうが、住んでいたのは、なんとその謎の男本人だった…。

↑これも、パラレルワールド系のエピソードなのですが、原作にもある、宿敵スティルソン議員との対決が始まります。

スティルソン議員は、後に大統領になり、核戦争を引き起こし、世界を滅ぼしてしまう男なのです。

「もし1932年に戻れるなら、君はヒトラーを殺すか?」
これがこの作品のテーマ。

(以下、原作と映画版のネタバレ)
原作や映画のラストで、ジョニーはスティルソン暗殺を決意します。
講堂の二階に隠れ、演説中に狙撃しようとしますが、暗殺に失敗し、警備の人間にジョニーは射殺される、という結末です。
(スティルソンがどうなったかは、ぜひ映画か小説でご確認ください。私はこの結末が昔から好きです)
浦沢直樹『MONSTER』の図書館でのヨハン暗殺未遂シーンはこの映画の影響のような気がします。)

映画「スパイダーマン」なんかもちょっとそうですが、「超能力を持ってしまうと不幸になる」パターンなんですね。

しかし、ドラマ版ではどうやら同じ結末にはならないようです。

第25話「天国の教会」 Zion

ブルースの父親、ルイス牧師が亡くなった。地元の人々はブルースが教会に戻り、牧師になることを期待している。葬儀に参列していたジョニーは、棺に入った父親に触れているブルースの肩に手を置いた。その時、visionの連鎖が起こり、ブルースがvisionの中に入ってしまう!

↑この話で、ジョニーは原作同様、スティルソン狙撃に失敗して非業の最期を遂げます。
しかしそれは、ブルースが家業を継いで、理学療法士にならなかった世界、つまりパラレルワールドの中でした。

ジョニーのリハビリを担当した陽気な黒人ブルースは、ドラマ版オリジナルキャラクターです。
このエピソードは、ブルースの存在によって、ドラマ版は映画版・小説版と同じ歴史にはならないということを示唆しています。
つまり、小説版・映画版と、ドラマ版はパラレルワールドの関係にあると宣言しているのです。これは面白い!

さあ、ドラマ版の結末はどうなる?
アメリカでもまだ完結していないので、それはわかりません。





おまけ。

ついでに、その他のエピソードも紹介。
●いい話系

4 第4話「消えた女」 Enigma

サラの友人とデートしたジョニーだが、不穏な将来を予知し交際を断念。翌日、ジョニーはある老人に戦争中に別れた恋人を探してほしいと頼まれる。老人は、若い姿のままの彼女を見かけたと言うのだ…。

第22話「消える男」 The Man Who Never Was

厳重な警報装置で守られながら暮らしているジョニーは、スーパーの配達員ラウールの訪問でしばし和む。だが、注文したケイパー(香辛料)のビンに触れたとき、79歳の老人ジェフリーのvisionを見る…。その直後、ジョニーの体が徐々に消えていき、救急車を呼ぼうとするが…。

第23話「死者は語る」 Dead Men Tell Tales

ジョニーは自宅の水漏れの修理を頼んだ店で、あるvisionを見る。それは銃を持った男が、その店の経営者ドネガルを撃ち殺すというもの。ジョニーは彼に犯人の人相を教え、警戒するよう忠告するが、事態は思わぬ方向へ…。なぜなら、ドネガルは裏組織のボスだったのだ…。

●変り種エピソード

第5話「12番目の陪審員」 Unreasonable Doubt
ジョニーの元に裁判所から陪審員召喚状が届く。担当するのは小さな店で起きた強盗殺人事件。被告人の17歳の高校生が無罪だと考えるジョニーに対し、他の11人の陪審員は全員有罪を主張。果して裁判の行方は?

↑「12人の怒れる男」のパロディも。「名探偵モンク」にもありましたよねー。

第20話「謎を解く女たち」 Misbegotten

いかれた娘ペニーがジョニーの家に不法侵入するが、通報により保安官が駆けつける。後日、デーナと食事の約束があるジョニーは、車で街へ向かう途中、立木に車をぶつけ、呆然としているアニタという女性を発見。助けようと、車を降りるジョニーだが、それは仕組まれた罠だった…。


↑「ブレアウィッチ・プロジェクト」+サイコホラーという異色作。
熱狂的なファンがジョニーを拉致してドキュメンタリーを作ろうとするが、殺人鬼が……。

その他、いかにも911以降のアメリカらしい、ジョニーがアメリカ政府に協力してアルカイダをやっつけるという、ネタとしか思えない、黒歴史になること確実のエピソード 第29話「ハント」 The Hunt なんてのもあります。(笑)


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