『ガンパレード・マーチ』の芝村裕吏氏が東京大学で講演

10月27日に、日本デジタルゲーム学会(DiGRA JAPAN) 第5回月例研究会「ゲーム世界観の作り方とその実践」を聞きに、本郷の東京大学まで行ってきました。

http://www.digrajapan.org/modules/eguide/event.php?eid=12

講演したのは、ゲームデザイナーの芝村裕吏氏。
高機動幻想ガンパレード・マーチ』『暴れん坊プリンセス』『新世紀エヴァンゲリオン2』『式神の城』『絢爛舞踏祭』や、TRPGAの魔法陣』などを手がけた方です。
アルファ・システムの芝村さん、という感じで有名ですが、現在は株式会社ベックに所属されているとのこと。
そういえば、何かで「ガンダムのゲームを作れと言われている」と発言されていたような気がするのですが、どうなったんでしょう。



講演のタイトルは「ゲーム世界観の作り方とその実践」。


私のレポートが、毎日新聞のサイトに載りましたので、まずはそちらをご覧ください。

芝村氏は、大変話が面白い、上手い方でした。長年企画を担当されてきたので、プレゼン慣れしているということでしょうか。


以下、芝村氏の発言を私がメモしたものから。

  • かつてゲームは表現能力が低く、クリエーターが作りたいものと、表現できるものが乖離していた。だから、実際の画面には出てこないイメージイラストが描かれた。つまり、以前はゲームの中に入っていないイメージを世界観と呼んだ。
  • なぜ映画は現代を舞台にしたものが多いのか。それは、フィルムで撮影するため、対象を新たに作らなくて済むようにだ。
  • ゲーム制作は川の流れにたとえられる。上流には企画者という源泉があり、下流に行くにしたがって川幅が広く、つまりたずさわる人数が増えていく。そしてこの流れは逆行することはない。つまり、最下流のバグをチェックする人が企画内容を変えたりするようなことはない。
  • ゲームは商品であって、利益を得るには、独創するか模倣するしかない。独創と模倣の割合はだいたい1対20。20本の独創性のないソフトに対して、独創的なソフトが1本という意味でもあるし、1本のソフトの中にも、他のゲームの模倣が20あるならば、そのゲーム独特の要素1がある、というのが普通。だが、独創、つまり誰も見たことがないものというのは、誰も理解できないという可能性があり、売れないという危険性がある。だから独創性のないソフトばかりになる。独創的なソフトを出す場合は、「どうせ売れないなら」と変なものを出してみる不況のときか、あえてゲーム会社が攻勢をかけるとき。後者の例は、プレイステーションを出した当時のソニー・コンピュータエンタテインメント
  • ゲームを企画する際、まずジャンルを決める。その次に、世界観を作る。ここで、世界観にオリジナリティを入れる。たとえば、「ドラゴンクエスト」のようなゲームだが、宇宙船が出てくる、など。ここでの宇宙船が、独創の部分。
  • 企画を立てるとき、簡易なキーワードで表現することが必要。ゲームプロデューサーの広井王子さんはこの天才で、「大正ロマン、美少女、宝塚、ロボット」というキーワードから、「サクラ大戦」を生み出した。
  • ジャンルを決め、世界観を作ったら、次に考証を行う。これは、キーワードに肉付けをする作業。たとえばキーワードが「土管に住む美少女」なら、なぜ土管に住んでいるのか、トイレはどうしているのか、など細かいところまで矛盾がないように設定を決める。
  • 世界設定を用意しなければならないものが多いほど、資料が必要になり、ゲーム制作に時間がかかってしまう。最近欧米で第二次世界大戦を舞台にしたものが多いのは、資料が容易に手に入り、ゲームデザイナーが企画を考えている間にも、グラフィックを描く人が作業ができるから。
  • ゲームは、いつ、どこで、どんな商品を出すかが重要。たとえばサッカーゲームはワールドカップの時期を逃すと売れなくなる。昔は90日でゲームが作れたので、このタイミングを設定しやすかったが、現在は制作に時間がかかり、思うようにいかない。911のテロのためにあわや発売中止になりかけた「ビルバク」のような不幸な例もある。
  • 芝村氏が「ガンパレード・マーチ」などの複数のゲームで、「無名世界観」(通称「芝村ワールド」)と呼ばれる共通する緻密な世界設定を使っているのは、新しく設定を考えなくてすむため。最初に緻密に考証しておけば、後で再利用でき、制作時間を短縮できるから。スタッフも世界観を熟知しているので、急速にゲーム制作をスタートすることができる。これが強み。

(追記)小野憲史さんのSlash Gamesでの記事に、詳しくまとめられています。
ガンパレ開発者が語る「ゲーム世界観の作り方」とは― DiGRA JAPAN月例会
http://www.rbbtoday.com/news/20061030/35360.html


講演後、ご挨拶させていただいて、個人的に質問させていただきました。
長々とお話しできる雰囲気ではなかったので、いまいち突込みが足りませんが、せっかくなので書いておきますね。(正確ではない可能性があります。ご注意を。)

──今回、わかりやすいキーワードというお話がありました。『ガンパレ』のゲームシステムはすごく言葉で説明しづらいと思うんです。設定なら、「学園もの、ロボット」とか、ある程度想像がつくのですが、ゲームシステムのキーワードというのは?


芝村氏:「AI、ストーキング、女の子、××(※聞き取れず)」ですね。戦争のところは根本キーワード(※詳細不明)で作っていて。


──やはりAIですか。『ガンパレ』は、これまでにないシステムでしたし、デバッグが大変そうですよね。


芝村氏:死ぬほどかかりましたね。1年半ぐらいかかっちゃいました。とんでもない赤字でしょう。


──いやいや、その後の展開で十分回収されたのでは。


芝村氏:『ガンパレ』だけでは黒字にはなってなかったんじゃないですかね。


──でもたとえば、『ガンパレ』のAIエンジンが、その後の作品でも活かされていると。


芝村氏:いえ。ゼロから作り直しています。時代が変われば技術も変わるので作り直しですよ。

この講演会に言及している方:
http://kibokan.sblo.jp/article/1604690.html
http://perl.txt-nifty.com/note/2006/10/post_2e41.html
http://d.hatena.ne.jp/gyoxay330/20061027
http://d.hatena.ne.jp/kenjiito/20061027
(以下、追記)
http://perl.txt-nifty.com/note/2006/10/post_984c.html

アルファ・システムサーガ

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