遺されたもの

目黒区美術館は常設展がないので、ぐるっとパスで無料で入場できる。これはイイ! ということで、「建築家・村野藤吾のディテール展」が今週いっぱいなので行ってきた。
以前(パソコンが壊れていて日記が書けなかった時期だ)東京都現代美術館の「ガウディ かたちの探求」展http://www.mot-art-museum.jp/ex/plan6.htmに行って、建築の展覧会はアリということがわかったから、という経緯がある。
村野藤吾のいろんな建築を写真や模型で見れるのかと思ったらそうではなくて、旧千代田生命ビルというひとつの建物の写真と図面の展示だった。

さらに、ディテールつながりということで、所蔵作品展XVII〈でぃてーるノ誘惑〉という絵画などの展覧会を混在して展示している。ミックスは面白い試みだとは思うが、村野の建築の写真を見るモードに頭がなっているので、違うテーマの絵画鑑賞モードにはなかなか切り替えられなくてあまりよくなかったと思う。
通常美術館という空間を歩くとき、部屋ごとに脳内のテーマを切り替えているのだなと気づかされた。

図面に見入っていた人も多かったが、私はまだ図面を解読できるほどではないので、あまりじっくり見なかった。実物を知らないこともあって「これが!」という感じにならない。
住宅街の真ん中に立てるオフィスビルなので、ガラスの冷たい感じにはしたくないが、かといってオフィスワーカーたちのために採光も犠牲にしたくない。そうしたジレンマをきっかけに生まれたアルミダイキャストを用いた独特の窓枠(のようなもの)のデザインが面白かった。
また、室内にあるという曲線を用いた階段(これは上記URLに写真がある)のデザインもいい。
実際に見てみたいものだ、この建物はどこにあるのだろう、と思ったら、去年からこの建物は目黒区総合庁舎(目黒区役所)になっていて、歩いて30分のとこにあるらしい。目黒区美術館、そういうオチかよ!

ということで、目黒区総合庁舎まで歩く。目黒川の桜並木の花吹雪がすごかった。
やや、これはよい総合庁舎ですね。民間企業の建物を買い取って内装を変えて建築を保存するなんて、日本ではあんまりないことじゃないかな。
さっき展覧会会場で写真でプレゼンされたものの実物に出会えるというのは、すごく不思議な体験。
その実物がどでかい建物というのも、建築ならでは。
これがさっきのアレか〜、とかなり楽しめた。
公共施設であるため、出入り自由なところがいい。千代田生命のままだったらこうはいかない。
そういえば、街を歩いていてしばしば気になる建築に出会うのだが、作者のネームプレートがないのをいつも残念に思う。実はアレとアレは同じ人、とかわかった方が楽しいのにな。

本当は目黒区美術館を見た後、庭園美術館の「パリ市立プティ・パレ美術館所蔵 パリ1900 ベル・エポックの輝き」展http://www.teien-art-museum.ne.jp/exhibition/paris/index.htmlでも見に行こうかなあと思ってたけど、去年はぐるっとパスで無料だったのに今年はちょっと割引になるだけ。これに1000円出すのは微妙だったのでやめる。
目黒区総合庁舎から恵比寿まで歩くことにする。途中、迷って代官山に初めて足を踏み入れる。ははーん、いかにもなたたずまいですな。

恵比寿の写真美術館へ。あれ? 入口脇のでかい写真壁画、一枚変わった? 気のせいかな。「知られざる ロバート・キャパの世界展」。やっぱ写真美術館といえばこれしかないでしょ。
内容はキャパが初めて世に名が知れた出世作から、死の直前に撮った一枚まで見られるという割とすごい展示。
見る前は写美所蔵のばかりの展示かと思ったら、外国から借りてきたものが大半。
写真ということもあって、正直これで1000円とか払うのはやや疑問が残るが、ぐるっとパスで無料だったので大満足。
キャパは死の直前、日本に来ていて、取材の依頼を受けて急遽予定を変更してインドシナへ向かい、そのまま帰らぬ人となったのか。
パリ時代は日本人との交流も多かったというのも知らなかった。キャパの恋人のゲルダ・タロー岡本太郎からとったペンネームだとか。そのゲルダもキャパより先にスペイン内戦で取材中、戦車に轢かれて亡くなってしまう。
地雷を踏んだらサヨウナラ』の写真家一ノ瀬泰造は地雷を踏んで亡くなったのではなく、クメール・ルージュに捕まって処刑されたらしいが、キャパは地雷を踏んで亡くなったのだな。
報道写真を見るのは難しい。その戦争の意味を考えればよいのか、キャパの意図を読めばいいのか、被写体の心を読めばいいのか、それともキャパの人生について考えればいいのか、いろいろな視点がぐるぐるして落ち着かない。