ざ・たっちはなぜテレビに出ているのか


ちんぴょろすぽーん」で有名な竹熊健太郎さんが、「ちょっとちょっと」のネタで最近見かけるようになった、お笑いコンビの「ザ・たっち」の面白さがわからないと書かれております。ザ・たっち ちょっと!ちょっと、ちょっと!!どした! 映像コント集 [DVD]サルまん サルでも描けるまんが教室 21世紀愛蔵版 上巻 (BIG SPIRITS COMICS)

これから書くのは悪口のつもりじゃないんですよ。純粋に、俺には理解ができないから書くんですが、「ザ・たっち」ってお笑いコンビが今、人気じゃないですか。双子のチビデブコンビ。この年末年始も、テレビつけるとやたらと出てたんだけど、すいません、本当に俺わからないんだけど、あの二人のどこがおもしろいんですか。なんで人気あるのですか。

「ちょっと、ちょっとちょっと」って、あれはギャグなんですか。テンポや間が悪いのは、わざとなんでしょうか。

http://takekuma.cocolog-nifty.com/blog/2007/02/post_2d60.html


私個人の感想を言うと、ざ・たっちの「幽体離脱」という一発ネタは好きですが、他は面白いと思ったことがあまりありません。

↑いま改めて見てみると、なかなか芸達者だったのですね。

でも、バラエティ番組で見ると、ウザいと感じることも多いです。
ただ、彼らがテレビにそれなりに露出しているからそう思うのであって、露出するからには理由があるのでしょう。


その理由とは、

  • 面白いと思っている視聴者が多い
  • テレビ制作側が番組作りに便利だと思っている
  • 何者かの陰謀

あたりが考えられます。

「何者かの陰謀」は、彼らの実家が実はテレビ局の大株主だとか、彼らがプロデューサーとデキてるとか、彼らの事務所が人気タレントの出演と引き換えに彼らの出演を要求しているとかいう例が当てはまりますが……そういう妄想は妄想だけにしておきましょう。


「テレビ制作側が番組作りに便利だと思っている」は、たとえ制作者側も彼らのことを面白いと思っていなくても、彼らがいることで番組がより良くなるとか、安いギャラで使えるとか、いろいろな理由が考えられます。
制作側のウケがいいという意味でいうと、彼らがとても性格がよくて、もっと一緒に仕事をしたいと思わせる人柄なのかもしれません。

これらの理由は、我々一般視聴者には窺い知ることができません。



で、問題は、「面白いと思っている視聴者が多い」のかどうかですね。
どうなんでしょう。
たけくまメモのコメント欄を見ると、現在73個のコメントがついていて、興味深い指摘がなされています。

僕もあの二人のギャグは理解出来ないですけど幼稚園児の子供が楽しそうに物まねしてます。
投稿 Joe | 2007/02/14 11:48:52

うちの幼児も同じです。
ワケもわからずマネをしています。

芸なのかどうかはわかりませんが、テンポがあるから流行る=人気があるというのはわかります。
つまり幼児をTVの前に引きつけるための駒?(^^;
投稿 shi-ta | 2007/02/14 12:13:41

先日、どこかの番組で博多華丸・大吉が幼稚園児に受けるギャグを研究させられるものがありました。
児玉清を真似た話芸では幼稚園児はドン引き。
既に書込みありますが、このときの「幼稚園児受け一位」が「たっち」でした。
「分りやすく、繰返しのあるアクション」が受ける要素とのこと。
また「シンメトリィ」であるのも良いようです。
3位だかがレイザーラモンHG
よって「フォー」と「ちょっとちょっとちょっと」は受ける要素は一緒
(なところもある)という事かと。
博多華丸がHGとたっちのまねをして受けまくっていたのが印象的。
最後にはオリジナルの「繰返し芸」をつくっておりました。

投稿 MAT.N | 2007/02/14 13:27:46

「ちょっとちょっと。」はリズムが面白いのか、
実家の母(70)も口癖になってました。

投稿 たうりん | 2007/02/14 14:17:39

(引用は抜粋しています。強調は引用者によります)



なるほど、幼稚園児から70歳までマネができるわかりやすさが受けていると考えられるわけですね。
だから、テレビ制作人も彼らを使いやすいのでしょう。


エンタの神様」などのお笑い番組を見て、いったいどれだけ幼稚園児や高齢者が楽しめるのか。
長井秀和だいたひかるのネタを見ても、ネタにされている有名人を知らなければ楽しめません。
爆笑オンエアバトル 長井秀和 [DVD]ほやほやの冗談


私がお笑いで好きなのは、主にアンジャッシュ陣内智則藤原紀香と結婚の人)、ラーメンズなどの、周到に準備されたシナリオがあるネタなのですが、これらは観客に物語理解力というか、ある程度のリテラシーを要求します。
アンジャッシュ ネタベスト [DVD]NETA JIN 2 [DVD]ラーメンズ 第15回公演 「アリス」 [DVD]


そこへ行くと、変人芸は世代に関係なく、おそらく日本語がわからない人でも面白いと思えるのでしょう。
そういう彼らに需要があるのは頷ける話です。


先日、芸人が中国で尻を出して問題となりましたが、*1
こういう番組で芸人ができることといったら、何か一発ギャグをやってお茶の間の大衆を笑わせることしかない。
尻を出すぐらいしかやることがない芸人もいるわけです。

やっぱりテレビは大衆のメディア、マスメディアということです。



こんなコメントもあります。

たけくまさん、彼らのネタ自体は見たことがないのでは?彼らのモノマネ芸はなかなか面白いですよ。芸人は売れ始めると逆に長いネタはテレビではあまり披露する機会がなくなってしまい、表層的なことばかり(ざ・たっちなら「ちょっと、ちょっと」タカアンドトシなら「欧米か!」等)が浸透してしまい、元々の芸を知らない人がそれだけを見て嫌いになってしまったりすることがあります。

投稿 u,t | 2007/02/14 17:47:02


そうなんですよね。


やはり芸人もお金を稼がなければいけませんから、準備に時間がかかる割に一回見せたら終わりのネタは、費用対効果があまり高くありません。
そこでバラエティ番組の司会などに行くわけですが、そういう場合に有利になるのは、ルックスがいいか(お笑いなのにイケメン)、独特のキャラクター(変人さ)を持っている場合です。


前述の、周到なネタを用意するアンジャッシュや陣内がバラエティ番組に出ても、普通の人になってしまいます。
面白さは、彼らのキャラクターから来るのではなく、主に脚本から来るのですから。


ただ、後者はすぐに視聴者に飽きられてしまいます。ダンディ坂野、テツアンドトモ、羽田陽区、レイザーラモンHG……。
THEたっちはどうなるのでしょうか。
普及版 これが一発屋だ!芸能界「一発屋」外伝―“笑いと哀しみ”の一発屋ワールド (オフサイド・ブックス)

私は「あばれヌンチャク」がけっこう好きだったので、今は「スケバン恐子」で人気の桜塚やっくんがどうなるのかも気になります。

自習!!ゲキマジムカツク(DVD付)


参考:
お笑い芸人のギャグ一覧 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%8A%E7%AC%91%E3%81%84%E8%8A%B8%E4%BA%BA%E3%81%AE%E3%82%AE%E3%83%A3%E3%82%B0%E4%B8%80%E8%A6%A7

本のオビの入れ替え遊びとモンタージュ効果

知り合いに本のオビ(腰巻ともいう)の文句を日々考えている編集者や有識者の方がたくさんいらしているのになんですが、これは久々に面白かった。↓

日刊スレッドガイド マンガの帯つけかえて遊ぼうぜwwwww
http://guideline.livedoor.biz/archives/50831300.html

⊂⌒⊃。Д。)⊃カジ速≡≡≡⊂⌒つ゚Д゚)つFull Auto マンガの帯つけかえて遊ぼうぜwwwww
http://www.kajisoku.com/archives/eid1168.html



なるほど! この発想はなかった。

これはマンガだけじゃなくて、すべての本でできますね。
海外の本は、オビどころかカバー自体ないものがほとんどなので、これは日本ならではの遊びといえます。


まったく関係のないふたつのものを組み合わせると、受け手が勝手にその関係を見出して意味を見出してしまう、というのは、
編集によって生み出された文脈によって、ニュートラルな映像を解釈してしまうという、モンタージュ効果ですね。

モンタージュといえば、クレショフ効果と呼ばれる有名な実験があって面白いです。

クレショフ効果とは何かというと、彼はまずある役者の無表情な顔のショットを撮ってですね、それを色んな別なもののショットと繋ぎ合わせてみたんです。
無表情な顔のショット→暖かそうなスープ
無表情な顔のショット→棺に入れられた老婆
無表情な顔のショット→遊んでいる小さな女の子
ってな感じです。どのパターンでも、二つ目のショットには最初の役者は全然出てこないんですよ。するとどうなるかっていうと、見ている人が勝手に二つのショットの意味を繋げて解釈するわけです。顔のショットはみんな同じなのに、最初のパターンでは「空腹」、次のやつでは「悲しみ」、最後のやつでは「愛情」といった別々の表現を感じ取っちゃうんですね。これを最初に見たソビエトの観客は、「ほとんど表情を変えずに色んな感情の変化を表現するとは、なんてすごい俳優だ!」ってビックリしたそうですよ。つまりショットには映っていない意味が観客の頭の中で作られるんですね。

http://filmstudies.blog21.fc2.com/blog-entry-40.html


ドラマの予告編なんかでも、このモンタージュの手法がよく利用(悪用)されていますよね。
たとえば予告編で、

  • 倒れる主人公の男→泣き叫ぶヒロイン

という、ふたつのシーンが編集されているものがあったら、
我々は「次回は主人公の男が倒れて、ヒロインが泣き叫ぶという波乱の展開!」かと思うわけですが、
実は見てみたら、

  • 主人公の男が空腹を表現するために、ふざけて倒れるフリをするという本筋とはぜんぜん関係ないシーン
  • 財布を落としたのに気づいて泣き叫ぶヒロインという、単なるヒロインのドジっ子っぷりを表現したシーン

だったりして、我々は編集のマジックに騙されるわけです。

予告編入りのドラマのDVDを借りてきて、まず本編を見てから、前回の終わりについている予告編を見ると、どこをどう切り抜いてどういう予告編に仕立て上げたのか、編集の勉強になりそうな気がします。

最近ではYoutubeによく上がっているMADムービーなども、多くはこの編集の遊びですね(音声の編集も含む)。
あるいはデスノコラとかも。


話を戻すと、このオビの入れ替え遊びは、先日紹介したギャグ作家「ひだけーだい」さん*1のお笑い分類にあったかどうかは忘れましたが、ひとつひとつは特に面白いものでなくても、組み合わせただけでその違和感または違和感のなさで笑えるというのも、お笑いの基本要素のひとつですね。
モンタージュから来る笑いといえるでしょう。



マンガだけじゃなくて、あらゆる書籍で応用がききますね。
この遊びは定番化していってもいいと思う。

でも、これって著作権違反になるのかな?
まあ、著作物の無断掲載という時点でアウトですけど、気になるのは「同一性保持権」になるのかとか。
組み合わせて提示しただけで、それぞれには手を加えていないのですが、オビを付けただけでも表紙を改変したことになるのかな、やっぱり。



実名でオビの推薦文を書ける人というのは、有名人である必要があって、しかもその発言を信じてもらえる立派な人でないとダメなんですね。
自分が買う本には、よく夏目房之介さんや東浩紀さんが推薦文を書いていますが、そう考えるとますますスゲーという感じです。*2


オビは編集者や営業の判断で付け替えられるものなので、Amazonの書影にはほとんど反映されていません。
ですから、いろいろなオビを見るというのも、リアル書店でウィンドウショッピングをする楽しみのひとつになるかもしれません。

雑誌「ダ・ヴィンチ」には、オビを論評する「腰巻き大賞」なんてコーナーがあったり。

ダヴィンチ 2007/03月号

ダヴィンチ 2007/03月号


それにしても、けっこうオビを捨てている人がいるんですね。
(まあ、書店でも勝手に捨てていいことになっているみたいだけど)

オビもけっこう重要な情報源なので、実家の近所の図書館では、オビをわざわざ切って分解して、表紙をめくった次のページの空白のところに貼り付けたりしていたりしていて感心しました。
それにしても、国会図書館ではオビどころかカバーや付録を全部捨てているのがありえない。

私は、オビはつけたままだと本棚に出し入れするときに破れてしまうので、取り外して折って栞として使っています。


一人でもできる映画の撮り方

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ネーミングの極意―日本語の魅力は音がつくる (ちくま新書)

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ぐっとくる題名 (中公新書ラクレ)

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「売れるネーミング」の成功法則―よくわかる!ネーミングによるブランド戦略 (DO BOOKS)

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怪獣の名はなぜガギグゲゴなのか (新潮新書)

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ヒット商品をつくるネーミング辞典

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すべてはネーミング (光文社新書)

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売れる! ネーミングの発想塾

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*1:http://d.hatena.ne.jp/AYS/20070208

*2:夏目房之介さんといえば、祖父・夏目漱石とのツーショット写真がすごかった→http://blogs.itmedia.co.jp/natsume/2007/02/post_550b.html

笑いをクリエイトするギャグ作家がマンガ家たちの怒りを買っている

知り合いのマンガ家さんが、「失礼なメールが来た」と言って怒っていました。

調べてみると、ホームページを持っているいろいろな漫画家さんに、同様のメールが来ているらしい。

ブログに書いているまんが家さんも方もいた。

http://chiharin.blog82.fc2.com/blog-entry-136.html

ギャグ作家 ひだけーだい

突然失礼致します!!

ネタ作家をしているヒダケーダイと申します!!

この度、笑いのネタ提供、ネタ分析、その他笑いのコンサルタント
を専門に承る仕事を始めました!!

現在の先生の作品のままでも完成されているのですが、
新鮮なネタ一つ入るだけで、今以上にキャラに対する愛着、
作品の質が格段に上がります(ギャグ漫画じゃなくても)!!

先生の作品に合わせた先生の為だけのネタをご用意させていただきます!!

勿論、クレジット要求、契約の公表はしませんので、完全ゴーストという形です!!

守秘義務は必ず守ります!!

御返信お待ちしております!!!!!

現在、無料専属契約キャンペーンをやっています!!
ネタの無料提供+タダ働き致します!!

http://www.omogaku.com       笑いをクリエイトする 面社

プロに向かって実績もない(もしくは不明の)人が「作品の質が格段に上がります」と言うのは失礼な話だ。



で、サイトを見ると、いろいろ分類しているのは立派なのだが、例を見てもその……。

サイトには、「ネタのストック数万、日本一のネタ作家。」とあるが、ストック数万の中から選んだ例がこれか。

まあ、15万円払う前にクオリティがわかるという意味では正しいんだけど。
「日本一の」というのはどういう根拠があるのだろう。

「笑いの公式」が100個挙げられているが、「親子丼」「責任転嫁」「GAP」と、2個以上載っているのもあるし。


あと、
「56 親子丼 時間を空けてから類似した言動をおこなう。」とあるが、ひょっとしてそれは「天丼」のことを言っているのか?



しかも、守秘義務は必ず守ります!!」と言いつつ、BCCを使わないで複数のマンガ家にいっぺんにメールを送っていて、受け取った人には他のマンガ家さんのメールアドレスがバレまくりというお粗末さ。
誰かのパソコンがウィルス感染してたりしたら、送られたまんが家さん、スパム増えるんだろうなあー。



契約依頼&相談フォームhttp://www.omogaku.com/2255.html
をスクロールダウンすると、納品される商品の例が載っていた。
「創作例 「さんまのからくりテレビ」のご長寿クイズのボケ回答を考えて欲しいとの発注があった場合」
……ムムム。この番組、私はあまり知らないんだけど、どうなんだこれは?
「「ビームス」なんておじいちゃんが言うわけない」とあるけど、「USJ」「UFJ」「XL」「電車男」「ユニクロ」もあまり言わないような気がするけどなあ。


さらに、西原理恵子さんのサイトからマンガを(無断?)転載して、ダメ出し。
えええええー?

しかも、「解決法:」って書いてあるけど、「とうてい無理があります」「すこぶる嘘くさいです」と、単に批判して終わり。まったく解決になってません。

絵と字が読みづらく損をしている可能性があります。基本的に日常生活というジャンルは笑いに結びつきにくいですが、これからも頑張ってください!!

↑売れっ子作家にこの「アドバイス」はどうなんだ?


さらに調べたら、Wii男で話題になったピョコタンさんや、さらには恐れ多くも、いしかわじゅんさんのところにまで送ったらしい。おいおい。


いしかわじゅんホームページ
http://hw001.gate01.com/jun-i/main.html

返信しねーよ。
HPがあったんで覗いてみたけど、寒いセンス。
ワンパック15万だって。
そんなもの注文するやつがいたら顔が見てみたいもんだ。

マンガ家さんたちは怒らせてしまったようですが、私は別の意味で笑わせてもらいました。

でもまあ、こういうネタ提供というのはビジネスになりそうな気はしますけどね。

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笑わせる技術

最近露出が増えてきたヒロシというお笑い芸人がいる。
ヒロシです。2
個人的には、まあまあ面白いと思うぐらいなのだが、「俺のサドルがありません」というネタはかなり好きだ。同じネタを二度聞くと「それはもう知ってるからもういいよ」という感じになるのだが、これは聞くたびに凄いと思ってしまう。
普通だと、「こないだスーパーで買い物した後に、自転車に乗ろうとしたら、俺のサドルがなくなっていたとです! もう、どうしていいのかわかりません!」とか言ってしまいそうなものなのだが、それではぜんぜんダメだ。
これだけ短く簡潔な言葉なのに、そこから想起される我々の思考と感情はもっともっと情報量が多くなる。


ということを考えたのは、年末年始のテレビは、例年通りお笑い番組がたくさん放映されていたからだ。
若手お笑いはけっこう好きなので、録画して早送りしながらだいぶ見たのが、あまり面白いと思えるものはなかった。


現在、久々のお笑いブームだそうである。
NHKの『爆笑オンエアバトル』あたりからブームが始まり、民放の『エンタの神様』が『オンバト』から面白い芸人だけ呼んできてクオリティを維持しつつ、少しずつ新しい芸人を試し、その中から「エンタ発」の芸人がやっとブレイクしてきたのが現在、という流れではないかと私は認識している。

民放の『笑いの金メダル』という番組もあるが、こちらはネタ以外のフリートークやどうでもいい企画が多くてつまらない。ネタではなくて、芸人のファンの人にはいいのかもしれないが。あるいは、芸人自身も、ネタの消耗戦にならない分楽なんだろうが。
オンバト』は有力芸人が多数卒業してしまい(おそらくギャラのよい民放や、安定したNHK夕方の健康番組等のレギュラーに流れたのだろう)、しかも2004年からは半分は「熱唱編」というバンドオーディション番組になってしまったので失速。


ところで、芸人のネタには、いくつかの傾向がある。

・変な人ネタ系(差別による笑い)
インパルス、ドランクドラゴンアンガールズインスタントジョンソン
いわゆる「変な人」を演じたコントが多い。いわゆる、「キモ〜い」とか「阿呆」というキャラである。
根っこには「いじめ」と同じ、他人を見下すことに起因する快感を利用した笑い。
笑いの多くは、日常的行動・常識的行動とは異なる、予想を裏切る行動という、ズレを利用したものが多いが、お笑いでは差別感が強く出ていることが多い。それだけパワーがあるということだろうか。

・有名人ネタ系(侮辱による笑い)
だいたひかる長井秀和波田陽区はなわ
有名人の実名を出して、揶揄する。陰口のようなもの。
このタイプは、大物に対して物怖じしない態度はときに庶民の代弁者となり、「王様は裸だ」と言うことができるヒーローのように見られることもある(若手芸人においてはそのかぎりではないが)。マイケル・ムーアとか。
だいた・長井・波田は、プレゼン方法が違うだけで、ネタとしては相互入れ替えが可能な、まったく同質のものである。

・毒舌系(差別+侮辱による笑い)
青木さやか友近
ピン芸人が独特の変人キャラクターを演じ、なおかつ他人を揶揄する。
芸人自身の態度は変人をみる際のおかしさに近く、芸人の発言による侮辱との笑いの混合。

以上のものはおおむねネガティブな、人間が誰しも持つ邪な心を利用した笑いである。相手を貶めることによって優越感を覚えるとか。
たしかに面白いこともあるのだが、不愉快な気分になることも多いので私個人としてはあまり好きではない。
たしかに昔から風刺や道化のような滑稽な笑いはオーソドックスなのだが、悪口や見下しというのはそれだけで快感を伴うもので、その分面白がらせる敷居が低くくもあり、人を笑わせるための芸としてのレベルは一段低いといわざるをえないだろう。

あるあるネタ系(共感による笑い)
テツandトモいつもここから、レギュラー、ハローケイスケ
日常生活の中にある矛盾やマーフィーの法則的なシチュエーションなどを提示する。「そういうことあるよね」とか「言われてみればそうだよな」というような反応を観客から引き出す。
日常に埋没した、意外性がありなおかつ言えば共感されるネタという、視線の確かさが問われるので、なかなか難しそうだ。

・自虐系(差別・共感・同情などによる笑い)
ヒロシ等
観客にとっては差別による笑いとほぼ同じ笑いなのであるが、差別される対象が芸人が演じる役や、第三者ではなく、芸人そのものというもの。
芸人自身がヒールを演じる(青木さやかがその代表か)必要がないので、受け手としては不快感は比較的少なくて済む。
波田陽区も、最後にフォローとして「拙者、○○ですから! 切腹!」と自虐ネタをひとつ発言して自己弁護と聞き手の邪心の緩和を行おうとしている。


NETA JIN 2 [DVD]マギー審司のびっくりデカ耳その他、陣内智則の各種メディアプレゼンテーション、マギー審司のマジック、パペットマペットの動物など、いろいろある。

爆笑オンエアバトル ラーメンズベスト [VHS]
ラーメンズはいろいろなバリエーションがあって一筋縄ではいかない。変な人ネタ系もあるが、ロジカルなもの、シュールなものと幅広い。

前にも書いたが、私が現在一番好きなのはアンジャッシュである。
三谷幸喜の喜劇などにしばしば見られるような、勘違い進行系のネタを得意とする。双方矛盾した前提で発話するにもかかわらず、主語や目的語の省略などにより言語の上ではまったく矛盾せずに進行する。(あの、若い娘か老婆、あるいはアヒルかウサギのどちらにでも見えるだまし絵と同じ構図を言語によって表現しているともいえる)
観客は二人の演者の発話を聞き、それぞれの内的世界を同時に想起する。いわばひとつのシナリオで同時に二つの物語を観客は脳内処理するという、きわめて高度な言語体験が行われる。
シナリオの高い完成度が必要となってくる。

冒頭のヒロシの簡潔さもアンジャッシュの複雑さもそうだが、往々にして、言語によるイリュージョンを求めて、明日も私はお笑いを見るのだった。

笑いの研究―ユーモア・センスを磨くために

short-term memory

爆笑問題のススメ」を見る。
http://www.stv.ne.jp/tv/susume/rateran/search?idno=20040419114229

貫井徳郎 “謎”のススメ

さて、ミステリー小説には欠かせないのが ― 『トリック』。
実はお笑いと構造が似ているのではないかと思う、貫井さん。
それに対して、爆笑問題からの答えは。。。
また、トリックを作るときの数々の苦労話を告白!!
さらにかをりちゃんからの素朴な疑問として、「すばらしい完全犯罪を思いついた時、思わず試してみたくなるんじゃないんですかぁ〜?!」
それに対して、貫井さんの答えは。。。

実際に実行可能な犯罪方法を思いついてしまったら、真似されると困るので封印するか、不可能なようにアレンジして使うとのこと。なるほど。

「これは受け売りなんですけど、ミステリーにおけるトリックとお笑いって構造が似てると思うんですよ。フリに対して、思いがけない結末・ボケがある」(大意)などと発言。
私も以前からそのように感じていて、そういう観点から両者にすごく関心があったのだけど(伏線好きだから)、やっぱりそう言われているのか。
ミステリ作家・評論家とかでそのような指摘している文章などがありましたら、ぜひ読んでみたいのでご存知の方はぜひ教えてください。

刑事コロンボ』「魔術師の幻想」を見た。ジャック・キャシディが三度めの犯人役。*1
「トリック」という用語に象徴されるように、ミステリーとマジックはよく関連付けられるよなあ、と思い出した。『名探偵コナン』とかでもそうですな。

以上のことをふまえると、お笑いかつマジシャンのマギー司郎とかマギー審司ナポレオンズとかは、きわめてミステリー的である、という結論に達するのだった。……違うか。

*1:今回マジシャン役のキャシディは犯人顔だよなあ。日本で言ったら山城新伍か? と思ったんだけど、よく考えたら『古畑任三郎』での山城もマジシャン役だったような? 三谷も同様に考えたのか? どっちも娘が一座の男と付き合ってるのを苦々しく思ってるし